Joker Lover | ナノ
7 of Spades
低い声

◆ ◇ ◆


「ちょっと来い。」


部活終了後、真っ先に黒尾が向かったのは名前の元だ。
彼女の手にあるものを側へ置くと部員達の視線も気にせずその手を引いて歩く。

その背を見上げながら名前は気まづそうに顔を歪ませた。


二人の状況を見ていたリエーフが眉間に皺を寄せた研磨に「どしたんすか?あの二人。」と興味津々な顔で問いかける。
ふいっと彼から身を背けた研磨は「さぁ?」とだけ言って逆方向へ向かって歩き出した。

内心、「めんどくさいから早く仲直りしてほしい。」と思っていたのだった。



名前が黒尾に連れてこられた先は部室…ではなく校舎へ入ったすぐそこ。
同じ時間に終える他の部の人たちが数人通っていく。

黒尾は腕を組み、どこかいつもの表情とはちがうそれに名前は視線を落とした。


「…言いたい事、見つけたか?」


そっと問いかけられると、名前は口を固く結んだ。
ぎゅっと手を握りしめ、脳裏を過る嫌な光景。


「名前。」


そんなに、優しく名前を呼ばないでください。
喉の奥でつかえて声にならない。


「先輩が、信じられないです。」


素直に、伝えたまでだ。
なのに彼は暫しの沈黙のあと、うーんと唸った。

黒尾も黒尾で、一途に思っている。
しかしそれが彼女にはどうも伝わっていないらしい。
さて、どうしたものかと頭の中で考えながらちらっと彼女を見るなり、口元が緩む。


「…それは、俺に独占欲を抱いてるってことだよな?」


名前はそう言われて気づく。


「重いですか…?」


反論せず、恐る恐る聞く彼女に、いや?とだけ言う。
顔を上げた名前と目が合えば、嬉しそうに笑う。


私は怒ってる。
聞きたいことも、あるのに…


「名前がそこまで俺のこと好きだったとはなー?」

「…好きですよ、先輩が思ってるよりもずっと…」


いつの間にか、嫉妬するほど…独占したいと思うほどに気持ちは募っていた。


「調子乗るぞー?」

「…黒尾先輩。」


ふざけている余裕のある黒尾に名前は手を伸ばした。
ぎゅっと目の前の彼に抱きつけば、名前の後頭部を撫でる大きな手。


「…キスしてた人、誰ですか?」


ぼそっと問いかけたその質問を聞いた黒尾は、撫でていた手を止めて「は?」と低い声を出した。


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