7 of Spades
元気ない
◆ ◇ ◆
体育館、ボールが床を跳ねる音があちらこちらから絶え間なく聞こえてくる。
足元に転がってきたボールを手に取るなり、「わり。」と頭上から降ってきた声にドキリとした名前。
顔を上げることを、一瞬躊躇った。
それを見過ごさなかった黒尾は、無理に作られた笑顔と「どうぞ。」と手渡されるボールを受け取り、彼女にだけ聞こえる声で問いかけた。
「…名前、言ってくれねぇとわからねぇ。」
珍しい黒尾からの言葉に、思わず口が緩んだ。
それと共に、光景が脳裏に浮かぶ。
胸が、痛い。
「俺、何か悪いことしたか?気づいてやりたいけど…あれからいくら考えてもわからねぇんだわ。」
いつにない、弱々しい言葉の羅列と声色に本気で悩んでいることがわかった。
ぎゅっと手にしていたノートを抱きしめる名前の姿。
「…名前…」
「おい、黒尾ー!ボール!」
夜久の声にハッとすれば、名前を一度見て踵を返した。
その背を見つめながら、名前は思う。
……いつもより、元気ない?ように見える。
キスされていた事を思い返せば、怒りそうになる。
でも、どうしても確証がない。
本人に聞くしか、能はない。
やっぱり…ちゃんと話さなきゃダメだ。
でも…本当にキスしてたら…?
先輩は、あれをどう受け止めてるんだろう。
悶々とする名前。
それは、黒尾も同じだった。
…何に、怒ってんだろ。
俺何か悪いことしたか?
昼休み、たしかに名前は来てくれたけど…
夜久の声で気づいた。
でも名前の奴、走って逃げたんだよな…
教室行っても夜久に止められるし…
あと…
「アイツ、マジで誰だ。」
「え?」
「名前と仲良い奴いるだろ。」
「あー…岸のこと?」
隣にいた研磨に問いかけた黒尾の眉間に皺が寄っており、その表情は誰が見ても怖い。
研磨は視線を落とし、名を告げる。
「岸とやらは名前の何なんだ?」
「何って……いつも、一緒にいるクラスメイト?」
首を傾げながら答えた研磨に、黒尾は「ふーん…」と詰まらなさそうに返事した。
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