7 of Spades
空気
◆ ◇ ◆
研磨は感じていた。
場を見て、『めんどくさい。』と。
ため息をつきたいが、この場をどうにかする方が先だった。
しかし、彼が口を開こうとした時。
「おい。黒尾。」
研磨の視界に入る、頼もしい先輩の姿。
その姿を見た黒尾の表情が難しいものに変わる。
チラッと蓮耶を見た後、黒尾は頭をかきながら踵を返すと夜久に「わかってる。」とだけ言って二年三組の教室から離れて行った。
研磨は教室に入るなり鋭い視線を向けられ、「何。」と小さく問いかける。
蓮耶は研磨から視線を逸らし「いや、何でもねぇ。」と返し、彼もまた踵を返して自席へ戻った。
そこで研磨はやっと、ため息を一つついた。
名前はその光景を見て、ただ黙り、考えていた。
黒尾のあの光景の見解を変えてみる。
そうすれば、黒尾は何も悪くないのかもしれない…そう、例えば…たまたま…
「キスしてるように、見えただけとか。」
ぼそっと呟く名前は、無意識に口を噤んだ。
良いように捉えようとしたって、目で実際見てしまったものだ。
どう捉えても、脳内では悲しさが増す。
この時、名前の中で、黒尾への信頼性が、試されているように思えていた。
授業も右から左状態で、名前はその日の授業を終えた。
終えたはいいが、この後待っているのは黒尾本人との対面だ。
避けては通れぬ道…。
そう思えばそう思うほど、心は苦しくなる。
気が重くなり、足が進まない。
行きたくない気持ちが増す。
「名前。」
そんな時、声をかけてきたのは…
「行こう。」
意外にも、研磨だった。
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