Joker Lover | ナノ
2 of Spades
隠し隠され

◆ ◇ ◆


ふーん、と腕を組む黒尾。


「寺井先生のクラスなの?お前。」

「そうです。」

「変な事言うなよ?先生。」

「失礼だなお前ら二人して。俺はまともなことしか言わねぇ。」


“さっき自意識過剰なこと言ってたくせに…”と名前は思う。


「この人女とっかえひっかえしてるから気をつけろー?」


ニヤニヤした顔で寺井を見る黒尾。
寺井は「お前もだろうが〜」と皮肉っぽく言う。


「俺は一途ですー。」

「…。」


黒尾の目が鋭くなったのを見逃さなかった名前は口を僅かに開いた。
寺井はふっと笑う。


「はよ行け。部活中だろ?」

「失礼しましたー。」


ぶっきらぼうにそう言えば、傍にいた名前の腕を掴みそのまま廊下に出る黒尾。
ピシャリと部屋の扉を閉めた瞬間、ため息をつく黒尾。


「…くそ寺井のヤツ…」

「…。」


先生が、黒尾先輩のことを何か知っていることはわかった。
でもそれはたぶん…この先輩の様子を見ると…

私にはよくないこと。


…敢えてつっこんでみようかな。


なんて恐ろしいことを考えている名前の腕を引っ張る黒尾。


「寺井に何か言われなかったか?」


…何か?
それは、私には知られたくないことのこと?


チラッと黒尾を見上げる名前。
目が合えば、ほんのり頬を赤くしてへらっと笑う。


“後悔はさせないにようにしますよ、先生。”


黒尾先輩が主将になったときに、寺井先生に言った言葉。


「先輩がカッコいいこと言ったってことを聞きました。」

「何だそれ…?」


眉間に皺を寄せた黒尾は「まぁいいや、監督んとこ行くぞ。」と歩き出す。
その背を追いかけながら思う。


寺井先生と黒尾先輩、似てるんだ。


「先輩、先生と似てますよね。」

「ハァ?やめろ。嬉しくない。」

「冗談ばかり言うところが。」


足を止めた黒尾。名前もそこで足を止める。
不思議そうに黒尾を見つめる彼女に、彼は「それ以上アイツの話したらその口塞ぐからな。」と不機嫌そうに言う。


「…すみません。」

「よろしい。」


乱暴に彼女の頭を撫でる。
「失礼します。」と監督のいるらしい部屋に入っていった黒尾を見つめながら、視線をそっと下へ落とした。

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