Jack of Hearts
妨げ
◆ ◇ ◆
思っていた矢先に、やはりいつもと同じだと気づくともう遅い。
心の準備もままならないまま、唇が重ねられた。
でも、不思議とそれを受け入れられている自分がいたことに名前は気づく。
好きって気づくだけで、罪悪感がなくなった。
キスは、好きな人とするもの。
黒尾とのキスは、彼が名前を好きだとわかってからは今朝が初めてだった。
その時はまだイマイチわかっていなかったから、素直に黒尾のキスを受け入れられていなかった彼女。
でも、嫌ではないのは確かだった。
嬉しいのも確か。
それだけで、好きだと判断していいのか?
出逢って数週間しか経っていない現状で、判断していいものなのかと考えすぎていた。
いつから、好きだったんだろうかと思うほど、前から好きな気がしてならない。
そっと、黒尾の胸を押した名前と唇が離れ、お互い無言のまま数秒が経つ。
黒尾のシャツを握って、「先輩、練習しに行くんですよね。」と言う。
早く先輩を練習に行ってもらわなければいけない。
バレーの妨げにはなりたくない。
そう思った自分にふっと笑いがこみ上げた。
「名前?何笑ってんの…お前。」と苦笑いする黒尾。
「今、先輩のバレーの邪魔しちゃいけないって思ったんですけど…もうずっと前から妨げてるくせにって思いました。」
名前が目の前の黒尾の身にぎゅっと抱き着く。
彼の胸に顔を埋めて、慣れた香りが鼻を掠めた瞬間、口を開いた。
「黒尾先輩のことが、好きです。」
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