Joker Lover | ナノ
3 of Spades
被害とその先

◆ ◇ ◆


ポタリポタリと名前の髪から滴が落ちていく。
黒尾は誰もいない部室の端で鞄の中をゴソゴソと探る。
着いた先は、どうやらバレー部の使用する部室の様だった。

黒尾の姿を見ながら名前は、黒尾先輩だ…と噂の的を間近で見ていることに嬉しさを感じる。


噂では全く自分には関係ない人だと思ってた。
のに、今日…


鞄の中から赤いジャージを手にした黒尾がそれを名前の肩に掛けた。

ふわっと、何かの香りがした。


「悪かった。俺(主将)がもっと早く注意してれば良かったんだけど…」

「私も注意力が欠けてました。」


「なんかすみません、迷惑かけて…」と言えば、黒尾は「それはじゃあお互い様として…」とタオルを手渡される。

研磨から受け取ったタオル一枚は既に役目を果たし終えた後の様なもので水分を充分に吸収していた。

お礼を言ってからそのタオルを受け取ろうとした手首を掴まれた。
受け取るはずのタオルがその場に落ちる。


「その格好、気づいてねぇの?」


セーラー服は、白い。
季節は、夏。
素材だって冬と違って薄い。
水で濡れれば、下に着ているものも容易に透けてしまう。

それがわかったからと言って、黒尾に詰め寄られている現状に今は脳裏がいっぱいいっぱいで何をどうすればいいのか全くわからない。

名前はとりあえず黒尾から顔を背けた。


「いやー違う。謝ってもらおうとかそういうんじゃなくて…野郎の集まりなんだから、もっと警戒をしろってことを言いたかった。」


…そんなことか。と名前は思う。
手首を離した黒尾に「私なんか、誰もそういう風には見ないですよ。」と言いながら、タオルを拾う。

冷めた彼女に気を悪くしたのか、黒尾は「さっきアイツら苗字のその姿見て顔真っ赤にしてたぞ。わからなくもなかったけど…」と言って彼女の背後から腕を回す。

固まる名前に口角を上げれば、彼女の濡れた髪を避けた。


「男子高生、舐めるなよ名前ちゃん。」


露わになった首筋に唇を落とす黒尾。
ビクッと身を揺らした彼女の脳内はパニックに陥る。


私は一体、何をされてるんだろう…。


首筋をツウっと舌が伝う。
声が、自然と漏れる。


「名前…」


いつからこの先輩は私を名前で呼ぶようになったんだろう。
訳が分からないその場に、流されるがまま名前の唇は塞がれた。


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