A of Diamonds
憧れ
◆ ◇ ◆
視線を逸らした名前にふっと笑う。
「名前ちゃんに聞きたいことがあるんですけど?」
「…何ですか?」
「きのうの夜のこと。」
ドキッとした。
それと同時に黒尾を見てしまった名前。
ニッと笑う彼を見て、何を聞かれるのかわかった。
「昨日の夜のことって?」
「お前ありゃねぇだろー?いくら山本来たからって言うだけ言ってその後から今までどんな気持ちでいたと…」
「私の事考えてたんですか?」
「そりゃ考えるだろ。バレーしてる時は別だけど。」
嬉しい。
素直にそう思える自分が今いる。
真っすぐ黒尾を見つめる名前に、負けじと見つめる黒尾。
「名前もだろ。」と言われ、目を少し見開いた。
「え?」
「“噂で想像していたより、何倍もカッコいい人だった。”」
「っ…」
聞かれてた!
顔を真っ赤にして目を泳がせる名前をニヤニヤしながら見る黒尾。
「最後しか聞いてないって言ったじゃないですかっ」
「最後じゃねぇか。名前言ったよな〜、“聞かれてどうこうなる事じゃない”って。」
「…それはどうこうならないですっ」
本心だったがゆえに何も言い返せないし誤魔化すこともできない。
「名前にとって俺は憧れの存在だったとは、初耳だぜ。」
「っ…」
この人…一体いつから聞いてたんだろう…。
目の前の彼はニヤニヤとしていて自分の反応を見て楽しんでいるように見える。
その表情に少し疑問を持った。
…嫌じゃ、ないのかな?
「嫌じゃないんですか?」
「ん?何が?」
「私が先輩のこと憧れてるってこと知って…」
「?嫌じゃねぇけど…むしろ嬉しい。」
きょとんとする黒尾と名前。
黒尾はその質問を聞いて少し考えた様子を見せた後、ふっと小さく鼻で笑った。
「もしかして、まだ疑ってんのか?」
「…疑ってませんよ。」
そう言いながらも、視線は逸らす彼女に黒尾は「ん。」と腕を広げる。
「?」
黒尾に目で訴える名前。
これは、何ですか?
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