Jack of Hearts
見つけた
◆ ◇ ◆
研磨の背を付いて行く名前。
今朝黒尾と話した教室までに行く道中の階段で「クロ?」と研磨が呼ぶ。上の階から降りて来た様子の黒尾と目が合った。
「見つけた。お前どこほっつき歩いてたんだー?」
「…すみません。」
素直に謝る名前を見た研磨が黒尾に「名前だって探してたんだから、クロも謝りなよ。」と言う。
「研磨…」と、か細い声で名前を呼ぶ名前に視線を向けた研磨は「クロ、謝ってくれるって。」と勝手に決めつけ黒尾を指さす。
「お前な…」
「はい。」
「…。」
研磨に背を押され黒尾の前に突き出されてしまった名前。
その彼女を見てふいっと視線を逸らす黒尾。
「…悪かった。」
「…ふっ」
研磨と名前が小さく笑う。
黒尾は「研磨はもう上がんのか?」と問いかける。
「うん。つかれたし…。」と頷く研磨。
「俺はもうちょっと練習してくるわ。名前、話あるからちょっと来い。」
「…はい。」
黒尾が来た道を戻っていく。
名前は研磨に「ありがとう。」とお礼を言ってから黒尾の背を追った。
二人っきりになった途端、前より緊張度が増した気がする名前。
夜だし、暗いし、二人っきりだし、それに…。
“好きでもない人のこと抱きしめたいなんて思わないね!”
今朝まで悩んでたことがこんなに簡単に答えがわかってしまうなんて思ってなかったよ…。
でもよく考えてみればあれだけキスされてて好きかどうかわからないなんて言っている自分もどうかしてたな…。
「うーん…どこで話すか。」
階段の踊り場で立ち止まった黒尾。
名前は首を傾げた。
「黒尾先輩の用は、合宿関係のことじゃないんですか?」
名前の質問に「いや?違うけど?」と言われてしまっては、愕然とする。
「…慌てて探したのに…」
「俺の用で苗字を呼び出すには何か必要ってか?」
企んだ笑みを見せている黒尾を見て視線を逸らした名前はボソッと「先輩ならタダでいいです。」と答えた。
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