Jack of Hearts
大事にしてるよ
◆ ◇ ◆
「なるほどな。黒尾のことを意識し過ぎて会えないと。」
「そうなんですっ」
どうしましょう先輩。と夜久に言えば彼は即言い捨てた。
「バカか。早く会ってこい。」
「えぇえっ」
夜久の思いもよらぬ発言に名前は最後の砦を無くしたかのようにその場に座り込む。
夜久は彼女から視線を逸らした。
「苗字はマネージャーだろ?黒尾のは急用みたいだったし…もしかしたらバレー関係のことかもしれないしさ。」
「…そうですね。探しに行ってきます。」
来た扉から出ようとする名前に、夜久が「苗字。」と呼び止める。
ゆっくり振り返った名前に、夜久は「黒尾は、お前を大事にしてる。」と言った後、「それは俺たち部員も同じだよ。」と笑みを向けた。
その夜久の言葉には、“マネージャーとして大事にしている”ということが隠されている。
“黒尾はお前を大事にしている”には、夜久の中では“一人の女として”という意味が込められていたが、彼女はその意味を理解したのかは定かではない。
しかし、「ありがとうございます。」と彼女は笑顔を向けた。
扉を出てから名前は多数ある体育館を回る。
黒尾先輩どこに行ったんだろう…。
探しに出たは良いが、思ったより場所が広く困る。
「あれ、名前?」
「研磨っ!」
暗闇の中から現れた研磨に名前は駆け寄る。
体育館から出てどこかへ向かおうとしているところだった。
「よかった。黒尾先輩見なかった?」
「見たよ。クロも名前探してた。でも、こっちでは見てないけど…」
「えぇ…どこいると思う?」
幼なじみの研磨なら何か以心伝心のようなものがあるかもしれない、とくだらないことを考える名前に研磨が「おれ今から教室戻るんだけど…一緒に行く?」と首を傾げた。
教室にいる可能性もあり、その道中にいる可能性だってあると思った名前はコクリと頷いた。
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