Jack of Hearts
わからないことだらけ
◆ ◇ ◆
体育館の中に足を踏み入れた名前は、目の前の光景に目を輝かせた。
これが合宿…!
ギューッとタオルを握りしめる名前の目の前には研磨の姿。
凄い力で握られているタオルを見て引っ張ってみるも全く離す様子はない。
「…クロ、」
「あ?」
名前を指さす研磨。
そっとそばにあったタオルを彼に手渡した黒尾。
その一部始終を見ていた夜久が呆れた表情で見ていた。
「苗字ってホントにバレーの試合見たことねぇの?」
「はい。体育の授業ではやったことも見たこともありますけど…部活ってなると、話は別になります。」
「まぁ…なぁ…」
曖昧な返事をした夜久を見た名前の先には他校の部員と話しをする黒尾の姿。
「夜久先輩。」
「何?」
タオルを握ったまま視線だけを向ける夜久。
名前は小さな声で「黒尾先輩って身長いくつなんですか?」と問いかける。
その質問に「はぁ?」と眉間に皺を寄せた彼は「知らねぇよ。自分で聞けば?」と冷たく吐き捨てる。
「?」
何で、ちょっと機嫌悪くなっちゃったんだろう…。
まだまだ名前は部員のことはわからないことだらけである。
首を傾げている彼女を面倒くさそうな顔で見ていた研磨が「夜久くんには聞いちゃいけない質問だったかもね。」と言う。
それを聞いた名前は難しい顔をして「そうなの?」と確認する。
一度頷いた研磨を見て、名前は夜久の背を見つめた。
「あ、ねぇ、研磨。」
「クロの身長ならクロに聞いて。」
「…。」
まさに聞きたかったことを聞かなくても答えを返してきた研磨に名前は口を開けて間抜けな表情をする。
「…それは、バカ面?」
「ねぇ、それも聞きたいんだけど…なんでみんな(部員)に私はバカだと思われてるの?」
「リエーフの名前覚えられなかったからでしょ。」
確実にアレのせいでイメージがついちゃったんだと思うよ。と言われ納得する名前。
それを聞いていたらしい黒尾がくっと笑う。
「わり…」
「わかってます。全然いいです。気にしてませんよ?」
「…物分かりがいいんだね、名前。」
ふいっと顔を背けた彼女は言っていることとやっていることが矛盾しており、それがまた黒尾の笑いを誘った。
研磨の言葉を耳にした瞬間、彼は笑うことを止め、「あーそうねー」と口角を上げる。
「それで俺の気持ちがわからないとか言われたらどうすればいいんだろうな…」
「それはもう諦めるしか…」
「えっ…」
黒尾と研磨の会話に名前は素直に反応する。
少し考える素振りを見せた名前は、何事もなかったかのように彼女はその場から離れていった。
「…名前、今のでもっと考えるんじゃない?」
「…どうだろうな。」
黒尾を横目に研磨は微妙な顔をした。
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