8 of Clubs
髪
◆ ◇ ◆
着いたぞーという黒尾の声に、重い瞼を上げた研磨。
右に傾いた身体を起こせば、右腕に何かが触れてゾワッとした。
「?!な…」
目を見開いた先には、爆睡しているマネージャーの姿。
腕に触れたのは彼女の髪だ。
…目覚め最悪。
「どうした?」
研磨を起こしに来た様子の黒尾。
彼の表情を見て口元を引き攣らせる。
「名前の髪にびっくりした。」
そう言って彼女の髪をそっと掬いとる研磨。
その行動に目を少し開く黒尾は研磨の肩を掴んだ。
驚いて、「え?」と小さく声を漏らす研磨。
黒尾自身、驚いている様子を見せており、二人して顔を見合わせる。
「…いや、何でもねぇよ?」
「…じゃあ、コレ何。」
研磨の視線は相変わらず肩を掴んでいる黒尾の手へ。
「いや。深い意味は…」
「…へぇ。」
あまり、深く突っ込まない方が自分のためだ(面倒くさいことには巻き込まれたくない)と思った研磨はそれ以上、彼を問いただすことはしなかった。
「…そんなに不安なら早く付き合えばいいのに。」
「うるせぇ、放っとけ。」
研磨が立ち上がると同時に、名前が小さく唸る。
しかし、起きる気配はない。
「名前、寝れなかったのかな。」
「…。」
自分のせいである黒尾は何とも言えない表情で、頭を掻いた。その仕草は、研磨には十分な答えだった。
「告白でもした?」
「…ハッキリ言った。」
へぇ、なんて?と問いかける研磨。
黒尾は寝ている名前に視線を向けつつ口角を上げた。
「もっと俺を見ろ。って。」
ピクリと指を動かした名前はへらっと笑う。そんな彼女を見て。研磨はふーん…とだけ言い、その場を先に去っていった。
そっと、彼女の髪に手を伸ばす黒尾。
指に絡めた毛先を見て思う。
「……早く好きだって言ってくれねぇかなぁ。」
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