8 of Clubs
呼び捨て
◆ ◇ ◆
『あれば、あるだけ欲しい。』
黒尾先輩の声が、頭から離れない。
あの日を境に、名前は黒尾の姿を見ては頬を赤くする。
その表情が、物語る。
「何かの病気?」
「…とうとうバカが最高点に達したか?」
周りの部員が気づかないはずがない。
名前のぼそっと呟いた言葉に素早くツッコミを入れたのは、彼女をバカだとわかった夜久。
「先輩…私、最近心臓が痛いんですけど…やっぱり悪いことしてるからですか?」
「神様は凄いな。」
一人ひとりをじわじわと痛めつけていける力があんのか。とボールを手にすると反対の手で「あほ。」と彼女の頭を掻き乱せば、ふっと笑った。
「何も悪いことしてないじゃん。」
「…え?」
「黒尾と密会してんだろ?」
「っ!!や、やめめくださいその言い方っ」
「やめめ…」
慌てる名前は、呂律が回らず、それに夜久は笑う。
二人から離れた場所で、黒尾がイラッとした表情を見せていた。
「あーゆーの見ると詰まんないよなぁ…」
「そう感じる時点で手に入れたらいいのに。」
簡単に言うねぇ、と研磨を睨む黒尾。
本人は背を向け名前の元へ。
おいおい、言ったそばから行くのかよ…。
「名前、」
「あっ研磨だ。」
「えっいつから研磨になったんだよ。研磨も名前って呼んでるし…」
夜久から声をかけた研磨に視線をやった名前はふわっと笑う。
夜久は聞きなれないその呼び方に違和感があった。
二人は顔すら見合わせず、真顔で声を揃えた。
「「今。」」
「今かよ。」
二人の早さにはついていけず呆れる夜久。
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