6 of Hearts
時間
◆ ◇ ◆
翌日、黒尾との勉強時間。部室にはすでに誰もいない。残っているのは名前と黒尾だけだ。
昨日の分が全くなくなってしまったため、昨日と、今日の分を一気に教えてもらった名前。
一気にわかった気がする。
すごい。
さすが主将なだけある。
そう思った瞬間、背後から「お前今失礼なこと考えただろ。」と言われたので「すみません。」と素直に謝った。
「お礼くれてもいーんじゃないの?」
帰る準備を終え、鞄の持ち手を指にかけた瞬間を狙われた。
背後から抱きすくめられる。
指から持ち手が落ちた。
「…何がいいんですか?」
「なんでも?」
「…あげれるものなら。」
うーんと悩む素振りを見せる黒尾に、何を申し出されるのかドキドキする名前。
「じゃあ、時間くれ。」
ドキドキが、一瞬にして止んだ。
そして次に動くのは思考回路。
時間?24時間にプラスで与えろってこと?
「……どうやってですか。」
真剣な顔をして聞き返す名前に、黒尾が「名前の時間が欲しいんだよ。」とだけ言う。
眉間に自然と皺がよる。
「私の時間って…あげたくても、あげれないですよ?」
そう言えば、黒尾は「バカ。」と一言放った。
「夜久も言ってたけどお前は本当のバカだな?」
「夜久先輩、そんなこと思ってたんですか…。じゃなくて、時間って…」
名前の言葉を遮るように、その唇が手で塞がれる。
目の前には黒尾の姿。
「名前と一緒にいる時間が欲しい。」
かぁっと顔に体温が集まる感じがする。
収まっていた鼓動が大きくなる。
そっと口を塞がれていた手が離れ、その手はそのまま名前の頬を撫でる。
親指が、唇をなぞる。
名前の視界に入っている黒尾の表情は、何とも言えない顔…でも、確かに言えることがある。
「どれくらいですか?」
唇を、じっと見つめて目が細くなった瞬間に、目の前が真っ暗になる。
いつも先輩が、キスする時は、甘美な雰囲気が漂う。
それこそ甘い罠のような、囚われたらもう動けない。
頬から滑り落ちるその手のひらが、背中に回る。
包み込まれてる、抱きしめてくれてる、この瞬間が実は好きだなんて言えない。
ダメなことをしてる。
わかってても、嫌じゃないことを拒むことは私には出来ない。
「あればあるだけ欲しい。」
黒尾先輩も、同じなんだろうか?
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