6 of Hearts
理由
◆ ◇ ◆
「理由…?」
「…は?もしかして気づいてないとか言うなよ?」
「…意味が…」
難しい顔をして黒尾を見る名前に、盛大に溜め息をついた。
「はぁーぁ…これだから名前ちゃんは…」
「…ムカつきますその言い方…。」
「そういうことは素直に言うのな。」
名前の手を掴んだ黒尾。
ん?とその手をみた瞬間、名前を呼ばれ顔を上げた。
一瞬だった、唇に何かが触れた。
「…あれ、顔赤いけど?」
「っ…」
にやにやして、彼女を見る黒尾は、すっかり普段通りの姿を見せている。
意地悪な黒尾の姿だ。
「なぁ、気づいてないなら聞くけど…」
顔を背ける名前の視界に、追うように入ってきた黒尾。
「何で目合わないのかなー?」
「は、恥ずかしいからに決まってるじゃないですかっ」
「じゃあ何で恥ずかしいんだよ。」
「それは…」と口篭る彼女に、ニヤニヤした顔を相変わらず向けながら「あーそういや…」と思い出したような口調で黒尾は彼女を見た。
「研磨から聞いたけど…俺のこと気になるって?」
「えっ孤爪くんが喋ったんですか?」
「んなわけねぇだろ、研磨に俺が聞いた。」
孤爪くんを信じてたのに…と項垂れる名前に、観念しろと言わんばかりの笑みを見せている黒尾。
「…なんで、先輩は…易々と私に触るんですか?」
その質問に黒尾は据わった目をした。
「はぁ?だから好きだって言ってんだろ。」
「それは冗談なのはわかってます。先輩、冗談しか言わないじゃないですか…」
「おーおー、黙って聞いてれば…聞き捨てならねぇぞそれ…」
グイッと名前の相変わらず掴んだままだった腕を引き寄せた黒尾。
一瞬にして距離が縮んだ二人。
「まぁ、確かに…きょうお前に冷たい態度とったのは冗談だ。」
「あ!あれっ…」と顔を上げた名前に、口角を上げた黒尾。
「でも…あとは違うぞ。」
名前が視線を落とす前に、その頬に手を添えれば、二度目のキスが落とされる。
「誰にでもこんなことすると思ってんなら、俺は名前に好きはもう言わねぇ。」
僅かに、動く名前。
「…嫌です。」
黒尾の首に腕を回して、ぎゅっと抱きつく名前。
「気になります、先輩が。」
名前の素直な気持ち。
黒尾はふっと笑うと名前の背に手を回した。
「素直でよろしい。」
髪の流れに沿って頭を撫でる大きな手。
心音が聞こえて落ち着く。
「…おい、寝んなよ?」
「…はい。」
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