6 of Hearts
好きな人
◆ ◇ ◆
…でも、好きな人いるなら何であのとき…?
部活が終わり、制服に袖を通す名前。
考えるのは、黒尾のこと。
「…やっぱり、誰にでもキスできちゃう人なのか…」
ここ数日、毎日部活で、黒尾の姿を見るが、彼自身の情報は正直ほとんど分かっていないままな名前。
結局、キスされた理由もはぐらかされるばかりでもうずっと聞いていない。
…二人っきりになることもないし…いつ聞こう。
そう悩むのも、無理なことではなかった。
だが、今日、時間があることに気づいた名前。
「そうだ。」
黒尾にバレーに関することを教えてもらえる時間があることを思い出した。
…その時、聞けばいいんだ。
そう思っていた名前だったが…。
「…あの、黒尾先輩?」
「何。」
「お、怒ってますよね?」
「…。」
すっかり、忘れていた。
心配してくれた彼の良心を折ってしまったことを。
根に持っている様子の黒尾に、部室に入ってからずっと短い返事しか返してもらえない名前。
どうしよう…と悩んでると、黒尾は「名前、お前、俺のことどう思ってんの?」と問いかけた。
黒尾は、真剣な目をしている。
「…どうって…?」
「好きか嫌いかだ。」
真剣な顔して、それを聞くのは正直困る。
「に、二択なんですか?」
「じゃあ選択肢増やしてみろ。」
「…普通とか。」
「わかった。名前は俺のことを普通だと思ってんだな?」
どこか、雰囲気が普段の黒尾に戻りつつあるな、と名前は感じていた。
その油断が、仇となる。
「俺はお前が好きだけどな。」
「……。」
…なんて?と聞き返そうとすれば、目の前の黒尾は「夜久には満面の笑み見せて、なんで俺には笑わねぇんだろうなー。」とその場を立ち上がる。
何のことだかわからない名前は、その場で戸惑う。
「名前さ…」
真剣なトーンで話を始めようとする黒尾を見上げた。
「…お前話聞いてる?」
「き、聞いてます!聞いてますけど…」
「けど何。」
きょとんとしていた彼女の目の前に座り込み、名前の顔をジーッと見つめる黒尾。その視線から逃れようと顔を背けた名前。
頬が、ほんのり赤いのは黒尾も分かっている。
「…ふっ…」
「え?」
静かに笑った黒尾の声に、名前は視線を向けた。
その直後、頭を乱暴に撫でられる。
「ほんとわかりやすい奴だな。知ってたけど。」
「俺を避けてんのにも同じ理由があんだろ。」と名前の頭から手を離す。
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