6 of Hearts
女慣れ
◆ ◇ ◆
「黒尾ー」
その彼が部員達から呼ばれるたび、名前は彼を見た。
部活に入って分かったことがある。
やはり、主将だけあって、部員達との絆は深く、そして…
「名前、」
「…はい。」
「お前、俺を避けてるだろ。」
よく一人ひとりを見ている。
据わった視線を向けられ、名前は思った。
「避けては、いないです。」
「いーや、避けてる。」
黒尾が彼女の目の前に立てば、名前は視線をふいっと逸らした。
その頬は、どことなく赤い。
「…お前熱でもあんのか?」
「え…」
額に掌を当て、じーっと体温を測る黒尾。
首を傾げると、今度は首筋に手が移動する。
ドキドキと緊張も相まって汗が流れる。
「……あ、あの!」
「ん?」
「熱ならないのでっ」
「わからねぇだろーが。」
「自分の身体のことは自分が一番わかってます!」
ぎゅっと目を瞑り、そう言った名前。
黒尾は手を下ろした。
「…あっそ。」
「…。」
あれ…?
キョトンと、立ち尽くし、去っていった背を見つめる名前。
「苗字さん、タオルある?」
「あるよ!」
研磨と福永の姿。
二人にタオルを手渡すと、名前は「孤爪くん、黒尾先輩と仲いいよね。」と研磨に話しかけた。
「仲いいというか…幼なじみ。」
「そうなの?」
「そうだよ。」
タオルで顔を拭く研磨。
「…黒尾先輩って、彼女いる?」
首を傾げた名前に、研磨は「何で?」と問いかける。
「…女慣れしてるなぁ…って、」
あと、ただ何か話さなければいけない気がしたから咄嗟に出た質問を口にした名前。
そんなこと知らず、研磨は「クロが気になるの?」と疑問をそのまま投げつける。
された質問に、考えてみれば…
「…うん。気になる。」
素直に頷くしか無かった。
まさか、正直な意見が帰ってくると思っていなかった研磨は、「そう。」と視線を落とした後、「彼女は、いないと思うよ。」と言う。
名前の視線が、研磨へ向けられる。
「…でも、好きな人はいるみたいだけど…。」
それを彼女に伝えた研磨は立ち上がるなり、コートの方へ歩いていく。
その背を見つめながら名前は、「好きな人いるのか…」と黒尾に視線を向けた。
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