Joker Lover | ナノ
6 of Hearts
不意に

◆ ◇ ◆


合宿が刻々と迫る。
それと同時に、名前と部員達の距離もどんどん縮まっていっていた。


「夜久先輩っ」

「ん?なに?」

「教えて欲しいことがあるんですけど…!」

「おぉーなんでもいーぞ。」


ニッと笑う夜久に、ぱぁっと表情を明るくした名前はノートを夜久に見せる。


「…顔が怖い。」


二人の様子を見ていた黒尾。
その隣を通った研磨がボソリと呟く。


「…それは元々だな。」

「…嘘つき。」


ちらっと黒尾を見るなり、トボトボと奥のコートへ向かう研磨。
黒尾はそんな研磨を横目に、溜め息をついた。





部員達がロードワークからぞろぞろと体育館へ帰ってくる。

名前はドリンクとタオルを部員達に手渡していた。


「あっちぃ…」

「夏は嫌っすね…」


黒尾がシャツをギュッと握りしめながら名前の元へ歩み寄る。

名前は、その姿を見て視線を逸らした。


こ…腰見えてるし!!
エロ、いというか…色気が…すごい。


「名前?大丈夫か?」

「す、すみません!」


目の前に来た黒尾が、心配そうに彼女の顔を覗き込んでいた。
本人は、考えていたことなんて口にできるわけがないので慌ててボトルを手渡す。
視線は相変わらず落とされたまま。

それをいいことに、黒尾が彼女の頭をぽんぽんと撫でた。


「っ…」


撫でられた直後、顔を上げて見てみれば、黒尾は山本と話しておりどんな顔をしていたのかわからなかった。

名前は、撫でられた頭に手を置いて思った。


…ずるい。


最近、むしろ、出会ったあの日以来何も無かったというのに、今日、しかも不意に触れられてはこちらとしては堪らない。


不意に、こういうことサラッとしちゃうあたり…慣れてるんだろうなぁ。


チラッと黒尾を見れば、目が合った。
慌てて逸らす名前に、黒尾は吹き出すように笑った。


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