Joker Lover | ナノ
5 of Diamonds
知識

◆ ◇ ◆


「名前さん!名前さん!今日一緒に帰りませんかっ?」

「えっと…り…り…」

「俺、灰羽リエーフ!1年です!」


マネージャーとして入部して数日、徐々に部員達と距離を縮めて行っているように見える名前を、他の部員達が見守る。


「アイツ…何回目だ?」

「今日だけでもう何度目か分からないほど聞いてる。」


山本と研磨が呆れたように話す。


「リエーフ…葉っぱみたいだね。」

「「?」」


葉っぱ?


部活達の脳内に広がるクエスチョンマークは自然と彼女をバカだと思わせるには充分だった。


「休憩終わるぞー」


黒尾の声に部員達が各々コートへ入っていく。
黒尾の背に向かって「なぁ、苗字って馬鹿なの?それともただの天然…?」と夜久が問いかける。


「は?」


何言ってんだ、と黒尾の難しい顔が向けられ、夜久は呆れた。


「ダメだ…アイツ何も知らないから真実が分かんねぇ…いつ何聞いても、は?の一点張りだわ。」

「誰か仲良くなったら分かるな。」


海の言葉にグッと拳をつくった山本。


「よし、俺がなります!」


それを聞いた夜久が「…お前じゃ頼んねぇよ…」と呟く。


「え?!酷いっす、夜久さん…」


部員達の話題の元となっているにも関わらず、本人はコートを見つめて真剣に練習する部員達を観察していた。


だいぶ分かってきたけど…練習だけじゃなんとも…


そう思っていたところに、朗報が入った。


「苗字ー」

「はい!」


黒尾の声に即返事をした名前。
ちょいちょい、と手招きする黒尾の姿に歩み寄れば「来週から森然ってとこで一週間合宿なんだけど…」と話を聞き、目を見開く。


「合宿?!ですか?!」

「え…うん…なんで嬉しそうなんだ?」

「じゃあ試合見れますか?!」

「試合?…あー…まぁ…そうだな。」


とても喜ぶ彼女を不思議なあまり黒尾の言葉が曖昧さを含む。
そんなこと気にしてない名前は目をキラキラさせている。


「そんなに試合が見たかったのか?」


首を傾げた黒尾に、名前は首を同じように傾げた。


「いや…練習だけじゃ…知識がある程度しか身につかなくて…」

「知識?なんの。」

「バレーのですよ。」


ケロッと言ってのけた彼女に、眉を顰めた黒尾。


「はぁ?毎日教えてるだろーが。」


彼女が入部するや否や、バレーに関する知識があまりに少なかったため黒尾が毎日部活が始まるまで教えに当たっている。


「いや…黒尾先輩の教えじゃ不安というか…」

「あ?何だと?」


名前は、言った直後口を自身の手で覆った。
時すでに遅し。黒尾は、口角を上げてはいるが…笑っていない。


「ほぉ…そうかそうかー名前ちゃんは日々の短時間学習では物足りないってか?」

「いや…そういうことじゃ…」

「勉強熱心なことで…」


偉いねぇ、と関心しているように見える、腕を組んだ黒尾が、にやりと笑った。


「んじゃ、これから毎日、部活の後、学習時間にしてやる。」


「スパルタだからな。覚悟しとけよ。」と言われ名前は首を横に振る。


「誤解です、先輩!」

「なにが誤解だ?」

「う…」


にやにやする黒尾の顔を見て、何か言ってやりたくなる名前。
でも、この顔は危険信号のようなもの…なのに食ってかかった彼女は、


「あー…俺が嫌なら夜久にでも…」

「そ、そうじゃなくて!」

「…ふーん?それは俺に教えて欲しいってことだな?」


彼に上手を取られるのだ。


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