5 of Diamonds
悩んでるんなら入るべき
◆ ◇ ◆
「好きになったの?」
「一目惚れだよな?」
「…異論はねぇ。」
はぁ、とため息をつく夜久と、視線を落とす研磨。
「どーせ顔でしょ。」
「一目惚れだもんな?」
「…顔…か?」
曖昧な黒尾の返答に、嫌な顔をする研磨。
「もう、好きにしたら…」
「…。」
夜久と顔を見合わせる黒尾。
「面倒くさくなったんだろう。」と夜久が言う。
「言い方悪いけど、居た方がいいに決まってる。」
「まぁな…」
「本人は?やる気あんの?」
その言葉に、そういえば本人の意思は全く聞いてないな、と思う黒尾。
「いや…ちょっと考える。」
「?おう。」
名前は、本気でマネージャーをする気があんのか?
「苗字ー、起きろ!」
「ん…」
机を叩かれた音で、目を薄ら開く名前。
教室には誰もいない。
いつの間にか補習は終わっていた。
「お前ちょっとすれば出来るからって、寝ていい理由にはならんぞ!」
「先生よく分かってるね、私のこと。」
「担任だからな。」
さすが…と口角を上げた名前に、先生は「お前いつも何してるんだ?バイトでもしてんのか?」と問いかけられる。
「何も…」
「高校生なんだからもっと青春謳歌したらどうなんだ。来年は遊べないだろ。お前の進路上…」
「んー…夢が叶えばそれでいいんだよ。先生。」
そのために、高校来てるんだよ。
たった一つ、将来の夢がある。
それを叶えるために通う必要のある教育課程を、ただ突出してなくたって平凡にしてれば過ぎていく。
先生は黒板に並ぶ化学式を消しながら、「俺も苗字みたいな感じで高校生送ったから言うけど…結構後悔してるんだぞ。」と話す。
身を起こさず、机に項垂れたまま先生の話に耳を傾ける名前。
「せめて部活はしておくべきだったと思った。部活入らなかったら、このクラスの多い高校では出会い半減だ。あと、楽しみ方も半減だ。」
先生の言葉は、リアルだ。
うちのマネージャーに…
黒尾の言葉を思い出して、口を開く名前。
「先生、うちの男子バレー部ってどんな?」
「は?バレー部?」
動かしていた手を止め、振り返る先生。
名前は身を起こした。
「うん。バレー部…主将の黒尾先輩がマネージャーに誘ってくれたんですけど…全然知らないのに、マネージャーしたら失礼じゃないですか…」
「へぇー…いいじゃん。すれば?」
「だから…話聞いてましたか?」
フッと先生が笑うと、「うちのバレー部は、強いぞ。」とだけ言う。
眉間に皺を寄せて口を中途半端に開けている名前の顔を見て、「入れば、休みはないに等しい。」と、付け加える。
「黒尾が勧誘したんなら…後悔はしないだろうなー。」
「?どういう…」
「んー、それは苗字が入部すれば分かる。」
あ、あと…と先生は、名前に笑顔を見せた。
「苗字、悩んでるんなら、入るべきだ。」
[ 10 / 82 ]
prev | list | next
しおりを挟む