5 of Diamonds
カラダで返す
◆ ◇ ◆
蝉が鳴く真夏。
太陽が照りつける中、最後の補習へ向かう名前。
首筋から胸元へ流れる汗を阻止すべく拭い、思い出すのは昨日のこと。
「カラダで返してもらうぞ。」
「……はい?」
名前は眉を顰める。
ふっふっと不敵に笑う黒尾は、ガシッと彼女の両肩を掴んだ。
「分かってんだろ?」
「…っ…」
黒尾の指がやらしく名前の首筋を伝って落ちていく。
頬に添えられた掌に、ビクリと身を揺らした瞬間、そっと身を低くした黒尾。
ギュッと目を瞑った名前。
またキスされる、そう思っていた。
「…あー、カラダってそっちじゃねぇから。」
「…え。」
ぱちっと開かれた目。
名前の目の前にいる黒尾は手を口元へ持っていく。
少し、照れて…
そう思ったことを、悟られたかのように腰に回された彼の腕。
密着する身体。
目の前には、にやりと不敵に微笑む黒尾。
「何…まさかエッチなことしたかったとか?」
「ちがっ…違います!離してくださいっ」
「キスする気満々だったのは誰だー?」
「仕方ねぇなぁ…」と腕に力を入れた黒尾。
名前も思わず黙って目の前の彼を見つめる。
「キスだけだぞ?」
そう言って唇を近づける黒尾を、視界から無くしたとき…
「うちのマネージャーになってくれねぇか。」
ぱちっとまた、開かれた目。
名前は、とうとう顔を真っ赤にして言った。
「先輩の馬鹿!変態!」
「期待し過ぎだろ、面白いヤツだな。」
「最低っ!」
「まぁまぁ…聞け名前。」
名前を呼ばれるたび、ドキッとする。
ピタリと動きを止めた彼女に、黒尾が「俺は冗談で言ってんじゃねぇの…」と名前の手を握る。
「うちのバレー部に手を貸してはくれませんかね。」
黒尾にジッと見つめられる名前は、ふいっと顔を背けた。
「嫌です。」
「は?何で。」
「黒尾先輩がいるから嫌です!」
「嘘つくなよ。俺がいるから出来るだろ?」
「知ってるぞ。」と、とても調子に乗っている目の前の彼を睨む名前。
「おめでたい頭ですね。」
「髪型の事か?良く言われる。」
「ちーがいます!!思考の方です!」
「何でもいいから早く折れろ。俺に口で勝てると思うな?」
グッと悔しそうに歯を噛み締める名前。
「嫌いな先輩がいるのでー…」
「それ聞き飽きた…」
低い声、背けていた顔を両手で挟まれるや否や、目の前に黒尾の顔。
近い…近すぎる…!
みるみる顔を赤くしていく名前に、静かに呟いた。
「俺は名前がいいんだけど。」
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