本気
「冗談なのか、本気なのか、わからないですよね先輩。」
そう言えば夜久は「それは時穏もだろー」とダルそうに返す。
それにはムッとした。
前から言っている、私はいつも嘘は言わない。
「私はいつも本気です!!」
「あーそーだったな。」
肩を揺らして笑う夜久の背を見つめる時穏。
「先輩。」
「んー?」
「…。」
気になっていることがある。
“先輩、好きな人はいますか?”
あれだけ以前、告白されたって、相手がどれだけ可愛くたって彼女にしない先輩がとても不思議で仕方がない。
実はずっと一途に思っている人がいるんじゃないか、って。
黒尾先輩には聞けなかったけど…夜久先輩は聞いても今ならまだ大丈夫だ。
自分の気持ちを言ってないから。
まだ、友達の妹。
まだ、部活のマネージャー。
まだ、後輩。
「何?」
黙り込む時穏を不思議に思ったようで、足を止め振り返った夜久。
同じく足を止め視線を夜久に向けた。
いつもの調子を、崩すな。
「先輩、好きな人いるんですか?」
質問にふっと笑う夜久にホッとした。
「突然だな〜。」
「先輩、そういう話聞かないです。」
「そりゃ榎本に話してたって、アイツも言わねぇだろ。」
「男と男の極秘、だろ?」とニッと笑う夜久。
答えは貰えず、ムッとする時穏に夜久が「そういう時穏は?好きな奴いんの?」と問いかける。
再び歩き出した夜久の背をとぼとぼ歩く時穏。
「…います。」
その答えに「へぇ〜どんな?」と問いかける夜久に「すごく、カッコいいです。」と言えば彼は吹き出すように笑う。
「お前、誰でもカッコいいんじゃ…」
「そんなわけないですー!」
「んーじゃあ他には?」
「んー…」
夜久の背を見つめながら、今まで関わって来た彼とのことを思い出す。
「優しい。」
「おー、で?」
「…モテモテ。」
「カッコいいもんな。ライバル多いんじゃねぇか?」
「…。」
「…。」
二人の間に、沈黙が流れた数秒。
時穏は立ち止まり、俯く。
そして、静かに口を開く。
「バレーがすごく上手くて…音駒でみんなレシーブ上手いのに、その中でも特にレシーブが上手いリベロの―…」
そこまで言って、ハッとした。
あぁ、口走ってしまった。
いや、夜久先輩だってわか―…
「…の?」
夜久は振り返って、時穏の少し先で立ち止まっていた。
夜久は「続きは?」と柔らかい表情を見せている。
正直、わからなかった。
でも、よくよく考えてみればわかること。
あれだけ言っておいて、もう答えは誰でもわかる。
「…夜久先輩が、好きです。」
[ 55 / 80 ]
prev | list | next
しおりを挟む