Love Game[完結] | ナノ

榎本先輩


「研磨ー。」

「ちょ…くるし…」


教室の端の席でゲームをしているプリン頭の研磨にぎゅっと抱き着く時穏。
よくイチャイチャしてる、とクラスメイトに言われていたが最近では周りの理解も得てそういう風に見る人も減った。


「時穏って誰にでも抱き着くよね。」

「彼女がいない人に限りますが。」


チラッと視線を挙げた研磨にニコッと笑顔を返すとすぐ逸らされ、「クロだっていないじゃん。」と呟くように言う。

時穏はその言葉には何も言い返せず「そ、それはまた話が別でして!」とヘラリと笑う。


「…あ、クロ。」

「えっどこっ」


中庭を歩く黒尾たちの姿。
どこからともなく「榎本先輩!」と兄を呼ぶ声が聞こえてくる。


「…黒尾先輩。かっこいい…。」

「…ほんとクロのこと好きだよね。」


窓からジッと黒尾のことを見続ける時穏。
その横顔を見ていた研磨はすぐゲーム画面へ視線を落とした。


「あの腕に抱きつきたい…」

「すればいーじゃん。」

「できるわけないでしょっ、できてたらもうしてるよ!」


研磨に言い返すと、しゅんと落ち込む時穏。


「クロはいつもどうすれば時穏が抱き着いてくれるのかを考えてるけどね。」

「え…そうなの?」

「秘密だよ。」


知ってると思っていた。

彼女の反応があまりに驚いた顔をしていたので、知らなかったのかも、と思い言ってはいけないことを言ってしまった気がした。

研磨は彼女に口止めだけをして再びゲームに視線を移した。


時穏は研磨の言葉を考えていた。


“クロはいつもどうすれば時穏が抱き着いてくれるのかを考えてるけどね。”


それって…つまり抱き着いてもいいってことだよね?
いや…でも黒尾先輩だし…私が抱き着くなんてほんと恐れ多いというか…。


うーん、うーんと唸っている時穏を見て、研磨はため息をついた。


「時穏のお兄ちゃんって、人気なんだね。」


話を変えた研磨に、時穏はいつも通り「あれのどこがいーのやら。」と兄には厳しい言葉を放つ。


「黒尾先輩がお兄ちゃんだったら私はいつでも抱きつけたんだろうな…。」

「…。」


研磨はその言葉を聞いて呆れた。
黒尾も時穏も抱きつくことにどれだけ悩んでいるんだろうか。と。


「恋人になりたいんじゃないの?」


その一言をきっかけに、時穏は項垂れた。


「そこまで、高望みはしてない…」

「?じゃあ、時穏は一体クロとどうなりたいの?」


研磨の問いかけに、悩んでいた時、窓の外から黄色い声が聞こえてきた。


『黒尾せんぱーい!今日もかっこいいですね!』


時穏はその声を耳にした瞬間、窓の外を見た。

黒尾は声のした方を見て口元を緩める。


その表情に、胸が痛む。


ぎゅっと胸元を握りしめる彼女を見て、研磨が呟いた。


「ハッキリしないと、他の女(ひと)に取られちゃうよ?…クロ、モテるんだから。」

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