気持ちの確信
朝練を終えた後、兄からメッセージが来ていた。
“昼休み屋上に来い”
それだけだったけど、行けば、何かがわかる気がした。
お昼休み、屋上の扉を開けた瞬間、兄の声がした。
誰かと話してる?
「あん時は、時穏、黒尾のこと好きだと思ってたしな。」
「…?好きだっただろ。」
この声…夜久先輩。
二人の姿は見えないが、話を聞くことだけはできた。
「やっくんも気づいてねぇのか〜。そりゃそうか。時穏も気づいてないままだしな。」
結兄は、何を言っているんだろう?
私も気づいてないことって…なに?
「黒尾も黒尾なんだよ。アイツ器用なのか不器用なのか…でも、好きな人には変わりないし…どういう距離でどう接したらいいのかわからねぇわな。」
「…何?どういうこと?」
ほんと…どういうこと?
ジッと扉越しに聞こえてくる会話に耳を傾ける。
「…時穏は、黒尾が好きじゃなかったんだよ。」
あ。と思った。
そう、おそらく自分のどこかでは気づいていたことだったけれど…
研磨が、黒尾先輩が私のこと好きとか言うから…わからなくなって…。
「…なに…どういうこと?」
「時穏が言ったわけじゃねぇけど…アイツ、黒尾が初恋の相手だと思ってるわけだけど…実際やっくんだから。」
「はぁ?」
「時穏にまだ確かめれてねぇけど…まぁ、本人も薄々気づいてると思ってる。」
時穏は口を詰むんだ。
結兄は、気づいてたんだ。
私よりも、先に。
「黒尾は、時穏のこと好きだ。それは今も。でも、入学してから知ってたのは夜久だ。バレー部に入りたいって思ったのは、黒尾を見たからってのもあったんだろうけど…夜久と話した時のことが強いんだろう。俺もあの時はビックリしたからよく覚えてるけど…まさか時穏から声かけて行くとは思ってなかったし。」
思い出されるのは、インターハイ予選で初めて見た夜久の姿。
“…あの。”
“ん?”
「あの時だと、俺は思うんだよなぁ。」
“すごく、カッコよかったです。”
私は、俯いた。
あの時、私は先輩が好きになってた。
でも、わからなかった。
どういうのが好きで、どういうのが憧れなのか。
「時穏は、夜久を傍で見て、話して、言葉にして、思った。」
“カッコいい人のカッコいい姿、勝ち進んでいく姿を傍で支えていける存在に”
口元に手を当てる。
声を押し殺して…黒尾を思う。
「黒尾は、時穏が夜久を元々好きだってことを知ってた。告白されて、付き合っても、別れる可能性の方が高かった。時穏が気づくのも時間の問題だと思ったからだ。…つまり、振ったのはそれが理由。」
黒尾先輩も、気づいてた。
…先輩は、私のことちゃんと好きだったのに…私が振らせた。
「…時穏。いんだろ。俺が呼んだんだけどな!」
慌てて、顔を隠した。
黒尾先輩はやっぱりカッコいい。
「時穏の頭撫でんの久しぶりだな…」
「…気持ちわりぃなぁ…」
「今に始まったことじゃねぇんだよ!」
私のせいで…。
でも、先輩は…私の大切な存在です。
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