聞きたいことがある
「はいはい。やっくんの聞きたいことって、何ですか?」
昼休み、教室で堂々と話せる内容ではないため夜久は結葵と屋上へ来ていた。
察しのいい結葵のこと、メッセージを送った直後“黒尾のことだろ”と返事が来た。
「榎本はどこまで知ってんの?」
「え?何のこと?」
「しらばっくれんのか?」
「違う違う!!」
結葵は夜久の気迫に慌てて首を横に振った。
「…全部聞いたのか?黒尾から。」
「…まぁ、ハッキリ話してくれなかったけど…大体は。」
「…俺さ、黒尾に本気でキレたんだよ。アイツにココで“まだやってもねぇのに、諦めんのかよ”って。」
グラウンドを見下ろす結葵。
その隣で同様に下を見る夜久。
「あん時は、時穏、黒尾のこと好きだと思ってたしな。」
「…?好きだっただろ。」
夜久の視線が隣の結葵の横顔を見つめる。
結葵はグラウンドを見ながらも、ニッと笑った。
「やっくんも気づいてねぇのか〜。そりゃそうか。時穏も気づいてないままだしな。」
「は?あのさ…さっきから話が見えないんだけど…」
ふざけてよくわからない話を適当にしているかのような結葵の言葉に夜久は難しい顔をする。
「黒尾も黒尾なんだよ。アイツ器用なのか不器用なのか…でも、好きな人には変わりないし…どういう距離でどう接したらいいのかわからねぇわな。」
「…。」
相変わらず一人饒舌に話を進めていく結葵の肩を掴んだ。
「…何?どういうこと?」
真っすぐ見つめられ、結葵は「夜久はカッコいいな。」なんて妹と同じことを口にする。
夜久が眉間に皺を寄せた瞬間、結葵は口を開いた。
「…時穏は、黒尾が好きじゃなかったんだよ。」
結葵の言葉を聞いて、理解する。
理解はできる。
でも、スッと受け入れることができる言葉ではない。
「…なに…どういうこと?」
「時穏が言ったわけじゃねぇけど…アイツ、黒尾が初恋の相手だと思ってるわけだけど…実際やっくんだから。」
「はぁ?」
意味がわからないあまり低い声が出る。
結葵もあまりの恐怖に身を少し引く。
「時穏にまだ確かめれてねぇけど…」
チラッと屋上の扉を見た結葵の視線に釣られ、そちらへ視線を向ける夜久。
「…まぁ、本人も薄々気づいてると思ってる。」
「…黒尾は…」
夜久の視線は結葵に戻される。
彼はふっと口角を上げれば空を仰ぎ見た。
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