不安の解消
駅に近づくにつれて、時穏の気持ちは軽くなって行く。
夜久がこうして、言ってもいないのに彼女の不安を無くす言葉を与えるからだ。
「あ…この前の電話のとき気になったんだけど…」
夜久が思い出したように話す。
「時穏さ、何で俺が時穏のこと好きになったんだろう。って思ったって言っただろ?」
「…はい。」
時穏は先ほどの夜久からの話を聞いた今でも、正直、まだ不安だった。
「俺も思うよ。それ。」
その言葉を聞いた直後、顔を上げた彼女の視線が夜久の視線と重なった。
「ウソ…って顔してんな。嘘じゃねぇけど。」
前を向き直る夜久の後ろ姿を見つめたまま、彼の話に耳を傾けた。
「時穏よりさ…俺の方がずっと好きだっただろ?その間、諦めたくなることだってもちろんあったけど…それより、『黒尾だろうが、誰だろうが…俺の方が絶対時穏を笑顔に出来る自信がある。』って自分に必死に自信持たせてたんだぜ?」
気持ち悪いかもしれねぇけどな…と苦笑いする夜久の横顔を見る時穏。
「そう思うには、気持ちだけじゃダメでさ…俺が自信持てる唯一のもんって…バレーだけだろ?だから、とにかく部活には集中した。」
知ってる。
それは、時穏が誰よりも知ってる確かな事だった。
毎日部活を見ていて、黒尾に視線が行くのは当たり前のことだった。
けれど、一番身近で話しやすかったのは兄の友達だった夜久。
毎日、抱きつくのと同時に口にする『カッコいい』は、間違いなく彼が言った自分の自信の持てるものを磨いていた姿を見てのことだった。
「時穏が好きだから、時穏が俺にそうさせてる。でも、それを見て時穏は不安になってる。」
だろ?と首を傾げる夜久に、一度頷くと頭に手を乗せ乱暴に撫でられる。
「まさかそこまで想われてたなんて…驚きだなっ。」
「っ…髪崩れる…」
「時穏、」
ぐしゃぐしゃにされた髪を手で直していた彼女の耳に届いたのは夜久の真剣な声色。
視線を向ければ、彼はニッとはにかんだ。
「時穏が思ってる以上に、俺はお前が好きだよ。」
「…って、口では言えるけど…信じてもらうには、行動だよな?」と、どこか不敵に笑う夜久に、時穏はドキッとした。
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