建前
黒尾と夜久が部活終了と同時に姿を消した。
「海先輩、二人は…」
「あぁ…大丈夫、すぐ帰ってくると思う。」
「はぁ…」
大丈夫?何が?
時穏が首を傾げている頃、二人は部室にいた。
「夜久が聞きたいのは何?」
「さっきの行動、」
「あれは自分でだ。」
部員を思うが上での行動だったのか、それとも黒尾自身の気持ちでの行動だったのか。
彼から告げられた言葉は夜久にとって良くない言葉だ。
「時穏を好きなのは知ってる。でもお前さ…」
「じゃあ夜久、」
「何だよ…?」
真剣な顔をする黒尾に身構える夜久。
「時穏を振った理由は、建前だ。」
「は…?」
「って、言ったら…?」
建前?
榎本にも同じ理由言ってただろ?
でも、コイツが本気で言ってんなら…俺らに嘘つく理由は何だよ。
「建前なんて、何でする必要があんだよ…って思うよな?」
「そりゃ…そうだろ。」
「…俺は時穏を振った。夜久と榎本には理由も話した。でもお前らは、二人ともその理由に、言い方は違えど『それでいいのかよ』、そう言った。」
黒尾は「…良くねぇけど、そうするしかなかったんだよ。だがな…」と話を続ける。
「時穏が俺を次に好きになってくれた時には、それを信じたいね。」
夜久は黒尾の話を聞いて何も言えず立ち尽くしていた。
ポンと肩を叩けば夜久は「何でそんなことしたんだ…」と呟く。
「…ホントは言うつもり無かった。でも、もう嘘はやめだ。本気で時穏と向き合う。」
部室から出ていこうとする黒尾を普段通りの表情をして見る夜久。
黒尾は「もう会った時から決まってたんじゃねぇの?」と口角を上げる。
「時穏は、お前が好きだよ。」
そう言い残して。
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