勘違いはほどほどに
「ん?」
研磨の呼びかけに声だけを返す時穏。
「クロが、時穏のこと好きだって言ったら…どうする?」
「……。」
研磨の言葉にふっと笑う時穏。
「何、例え話にしては…妙な事聞くんだね。」
「…時穏?」
「…わからない。何を思って黒尾先輩があの場に来たのかも…そのあとに来た夜久先輩も…」
「…クロは、時穏が夜久くんの彼氏になったことで、それをよく思わない人がいるかもって考えた結果がアレ。夜久くんは時穏がいなかったことと、クロがいなくなったことで後を追った結果がアレ。わかった?」
「…つまり…」
「クロの勘違い。」
時穏は「なんだ…そういうことか。」とホッとした様子を見せた。
「あ、だから“誰かにどこにいるか言ってから行ってくれ”って言われたんだ。辻褄が合う!」
「よくわからないけど…そこに関してはわかってくれた?」
「うん!」
普段の時穏に戻りつつある彼女の様子を見て、研磨は「じゃあ、」と話を続けた。
「さっきの例え話に戻ってもいい?」
「…。」
その問いかけに、うんともすんとも言わない彼女に不安になる研磨。
しかし、この時彼女は考えていた。
「…今は、どうもしないかな。」
「…。」
「だって、夜久先輩が好き。」
研磨は「じゃあ、絶対揺らがない自信、ある?」とさらに問い詰める。
時穏は「うん。」と一度しっかり、頷いた。
「…やっぱり夜久くんのことずっと前から好きだったんでしょ。」
その問いかけに少し考えた後、「あ。」と思い出したような声を出した彼女。
「ねぇ、夜久先輩って、私以外に好きな人いるの?」
「…。」
さすがの研磨もそれには黙り込んだ。
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