変わり目
「時穏。」
「は…い…」
「今日、一緒に帰るぞ。」
「…え?」
何かの聞き間違いか?と夜久を見たが、彼はそのまま真っすぐ黒尾の元へ向かって行った。
時穏は首を傾げた。
夜久先輩と一緒に帰るなんて…初めてだ。
しかし、素直に喜べないのは確実に先ほど彼女に言われた言葉の数々のせい。
その様子と、黒尾たちの様子を見て研磨はため息をついた。
一方、夜久は黒尾に「何で俺に言わねぇんだよ。」と問い詰める。
黒尾は「こえーぞ。」とだけ言って眉を顰めた。
「それは主将権限での行動か?それとも…」
「夜久。」
黒尾が低い声で制した瞬間、夜久の顔つきが変わる。
「夜久。」
「……海。」
海にニコニコとした笑みを向けられてしまえば、もうそれ以上は何も言うことはできない。
夜久は黙り込み、黒尾に「後で話。」とだけ言うと、彼は「分かってる。」と返事をした。
ピリピリした空気。
研磨が「ねぇ。」と声をかけたのは
「ん?」
時穏だった。
「時穏は、結局誰に呼び出されてたの?」
「夜久先輩のことを好きな女の子だよ?」
それを聞いて眉間に皺を寄せ「夜久くんのこと好きな女の子?」と聞き返す。
時穏は「うん。」と頷き、きょとんとした表情で研磨を見る。
「男じゃなかったんだね。」
「違うよ。この前、夜久先輩に渡す手紙を預かったことがあって…マネージャーの私に聞きたいことがあったみたい。」
内容まで言う必要はないだろう、とそこは言わず手短に話す時穏に研磨がチラッと黒尾の姿を見た。
クロのヤバい感じって、“夜久くんのこと好きな人たちからの反感を時穏が受けてるかもしれない”ってことだと思ったけど…
違うかったのか…それとも、ただの勘違い?
げんなりした表情をする研磨。
時穏が「心配かけた、よね?」と問いかける。
「主にクロと夜久くんがね。」
「それは…後でちゃんと謝罪しに行きたいと思ってる。…けど、なんで二人して来たんだろう?」
視線を泳がせる彼女に、「ねぇ、時穏。」と研磨が口を開いた。
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