不安が重なる
呼び出してきたのは…女子生徒だった。
夜久先輩と付き合っているという噂はどうやらそこまで公にはなっていないようで安心する。
でも…
「どういうこと?」
「それは私が聞きたいです。」
目の前の女子生徒2人。
見覚えがある。
とても可愛い子だったから、この子が夜久先輩と付き合うかもしれないと思ってたから。
「私が聞きたいのは夜久先輩が2年の女子と付き合ってるってことよ。そんなこと言ってなかったじゃない。」
「あの時はまだ付き合ってなかった。でも、今は彼女いますよ。」
ため息をついたその子はどうやら何から何まで受け止め切れていない様子。
「夜久先輩とは、アレから何かありましたか?」
アレとは、手紙を時穏に渡した時だ。
夜久からは振ったとは聞いたが、彼女から聞いた訳では無いし、何で知ってるの?と嫌な気持ちになる子の方が多い。
知らないふりをしなければいけない。
「会って、話はしたよ。めっちゃカッコ良かった!もう会えただけで幸せだった!」
隣りの友達は苦笑いをして「ゴメンね」と軽く会釈をする。
やっぱり誰が見てもカッコイイんだ、夜久先輩は。と頬が緩む。
「あんな人と付き合えた時には私もう全てを捧げる!」
「…。」
時穏はそれを聞いて、不安になった。
この子の方が…と。
「榎本さん。」
「はい…」
「私、夜久先輩から聞いたよ。」
「?」
「一年の時からずっと好きな人がいる。って。」
何をと口を開こうとしたが、そのまま閉じた。
一年の時から?
いつから好きだったんですか?と聞いたあの日、彼はまた今度教えてくれると言った。
そういえば、聞いてなかったけど…
夜久先輩が一年生の時って…私まだ中学生だけど。
まさか、他に好きな人いる?
不安に不安が重なっていく。
ギュッと手に力を入れた時、「時穏?」と背後から声がした。
振り返れば、黒髪の長身。
「黒尾先輩…」
主将の姿があった。
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