嵐
『二人きりになれる時間が欲しいんだけど…』
結葵は誰もいなくなったリビングから立ち上がると自室へ向かう。
「…黒尾のことなら、まだはえーよ。」
『でもさ…』
「やっと手に入れたんだろ?やっくんが一年の時から想い続けた女。」
結葵が言いたいことがわかったのか夜久は黙り込む。
「それともあれか?黒尾に取られそうで怖いとか?」
『元は時穏だってアイツが好きで…』
「それはわからねーぜ?」
『は?』
「それは…まだ、時穏もわかってないかもしれねぇ。」
『どういう…』
「結葵!!いる?!」
「げっ…」
結葵の自室の扉を勢いよく開けた母親の姿に彼は嫌な顔をする。
「時穏どこいった?!」
「部屋にいんじゃね?」
それだけ聞くと「時穏!」と廊下で叫ぶ声が聞こえてくる。
『…誰、何事?』
「母親が帰ってきた…多分飯放っぽって部屋行ったから、怒ってる…」
『大丈夫か?』
「問題ないと思いたい。」
怒ったらこえーんだよ、と話す結葵。
「とりあえず!今は存分に楽しめ!黒尾が動いた時は俺もどーにかする。」
『動く前提なのか。』
「動くよ。間違いなく。」
『?』
謎の多い彼の言葉に恐らく夜久は首を傾げていることだろう。そう思いながら、電話を切った。
「時穏〜夜久のことだけど…って…」
隣の部屋に向かえば、待ち受けていた母親。
「夜久って誰?」
「バレー部の奴。んで…」
「あーっ言わないでっ」
時穏の彼氏。
そういう気だった結葵の言葉を遮る時穏。
母親はその反応を見てニコッと笑った。
「時穏の彼氏か。じゃあ今度家に連れてきな。」
それだけ言うとリビングへ戻った母。
時穏は涙目で「うぅ…どうしよう。」と兄を見る。
「夜久なら大丈夫だろ。イケメンだし。」
「夜久先輩の心配じゃなくて、お母さんに対するイメージの心配だよ!」
「あぁ、夜久のか…そんなことでお前のこと嫌う奴ではないだろ?」
「まぁウチは親に似てないしな…そのお陰でめんどくさいとこあるけど…」と苦笑いする兄。
「…夜久先輩のことって何?」
「夜久は、時穏が思ってる以上に、お前のことが好きだよ。」
「…ん?」
「今の俺にはそれしか言えねぇけど…夜久から聞いた時は、俺の前で見せる夜久を教えてやる。」
だから、どこ好きになったかは、本人に聞いてみるといーんじゃないですか?と答え、妹の頭を撫でた。
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