そして、さらに…
夜久は携帯を耳にしたまま鞄の中から鍵を探した。
「時穏にさ、榎本に聞くんじゃなくて俺に聞いたらって言っといてくれねぇ?そりゃ、聞きたくないこともあるかもしれねぇけど…」
玄関を開けて鍵をかければ、そのまま部屋へ向かう。
ドアを開けた時、耳から聞こえた声に驚いた。
『夜久先輩は、私のどこが好きなんですか?』
「…え?」
そいや、前にもこんなことあったな…と思わず笑みが零れる。
「時穏。」
『はい?』
バッグを肩から下ろし、ブレザーを脱ぎながら夜久は「何でそれ気になったんだ?」と問いかける。
『今日、部活見てる時に…なんであんなにカッコいい先輩が、私のこと好きになってくれたんだろう…と思って…』
素直に言う時穏の言葉を聞いた夜久は嬉しいと思う反面、彼女の中にあるものに気付いた。
『そりゃお前夜久なんだからそうなるにきまってんだろーが。』と言う外野の声が聞こえてきて苦笑いをする。
『夜久に釣り合うように可愛くなるんだろ〜?』とまた恐らく言ってはいけないことを言う結葵の言葉を聞いて呆れると同時に、「え、そうなの?」と思う夜久。
『そ…う、嘘です。』
「嘘なの?」
『…頑張ります。』
クスッと笑う夜久の耳元では『結兄のせいでバレたじゃん!もう嫌い!』と叫ぶ時穏の声。
『あぁ〜時穏に嫌われたぁ〜』
「…やべぇな。」
『え?』
手の甲で口元を抑える。
「俺って、そういう風に見えてんだな、と思って。」
『えー?だから前から言ってんじゃん。お前の話ばっかしてるって。』
「いや…あんま言われても嬉しいなって感じで…ん〜…難しいな。」
『え?何が?』
夜久に考え事が一つ増えた瞬間だった。
「そうそう。本題なんだけどさ。」
『あぁ。うん。何聞きたいのかな〜?やっくんは。』
恐らく電話の向こうでニヤニヤしているであろう結葵に、「あのさ…」と話をする夜久。
「時穏と、二人きりになれる時間が欲しいんだけど…」
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