Love Game[完結] | ナノ

夜久先輩


研磨はいつも聞いてくれてるようで、聞いてくれていないところがある。
先ほどのように。

でも、目の前の彼は違う。


着替えを終えた時穏の目の前を歩いている守護神を発見した。
その背に勢いよく抱き着く。


「夜久先輩!」

「うぉ…っ…おま…あぶねぇだろーが!」


足音と気配をできるだけ隠し、勢いよくその背に身を預けた時穏は満面の笑み。
当の本人は叫びながらも満更でもなさそうだ。

それはもちろん、彼女がいつもいつも彼の背にこうして抱き着くことが習慣になっているからだろう。


夜久は時穏の兄、結葵(ゆいき)と1年のときに一番親しくなった友人だ。
もちろん、時穏が見に行った試合は彼が彼女の兄を誘ったことによるもの。


あの場がなければ、音駒に時穏はいなかっただろうし、バレー部のマネージャーにもなっていなかっただろう。

彼女の歩む道を導くきっかけを作った人に間違いないだろう。


そして、歩む道へ導いたのは、夜久と同じ学年でバレー部主将の黒尾鉄朗に間違いない。


あの試合で、時穏が一番、目を惹かれた人だ。



「夜久先輩きょうもかっこいーです!」

「はいはい、どーも。」

「ちょ…本気で言ってますよ?」

「お前の本気はどこのベクトルで置いとけばいーわけ?俺何かどっかで過ちを犯しそうでこえーんだよ。」



眉間に皺を寄せながらそう言う夜久に首を傾げる時穏。



「言ってる意味わかるか?」

「わからないです…」


身を離し、同じ視線の夜久に目をパチパチさせた時穏。

彼はため息をついた。


「…榎本に言っとく。テメェの妹は男キラーか。って。」

「男キラー?まさかぁ!」

「それは通じるのかよ…。」


ドッと疲れた夜久は体育館へ入ると1年生たちに挨拶をされ軽く手を挙げて返事をする。
その様子を見た黒尾が「どうした?元気ねぇな。」とニヤニヤする。


「…榎本と友達になるんじゃなかったと毎回思うぜ。」

「それは榎本がかわいそすぎるだろ。」


腰に手を当てて微笑する黒尾を見て頬を赤くする時穏。

不意に視線を向けられ、ドキリとして身を反対へ向けた時…


「時穏。」と名を呼ばれ、チラッと黒尾へ視線を向ける。


おいでおいでと手招きされ、歩み寄るなりクスッと笑われた。


「なーんで俺には抱き着いてくれないわけ?」と顔を覗き込まれる。
心臓の拍動するスピードが急加速する。


「む…無理です!黒尾先輩は尊敬しているので…その…恐れ多いです。」


そう言うと夜久が「俺は尊敬されてねぇのかよ。」と苦笑いをするのが見えた。


「そ、そういうわけじゃないんですけど…なんか、夜久先輩は結兄と仲良くて頻繁に会いますけど…黒尾先輩は違うじゃないですか…部活の先輩っていうイメージの方が強くて…」


モゴモゴ話す彼女に「ふーん。」と素っ気ない返事をする黒尾。


視線をゆっくり上げると、にやりと不敵に笑った。


「じゃあ俺は恋愛対象に入るが、夜久は入らねぇと?」

「は?そういうこと?」

「え…えっと…」


黒尾と夜久に視線を向けられ返事に迷う時穏は「意地悪しないでください…」と黒尾にお願いした。


黒尾は「じゃあ俺にも抱き着け。」と無茶な命令を下したが時穏は「それはできません!」と拒否をしたのだった。

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