再び
時刻は19時半。
榎本宅の玄関の扉が開き、ドサッとスポーツバッグを下ろした結葵。
靴を脱ぎ、制服のネクタイを緩めながら「ただいまー」とリビングに入る。
「お帰り!」
「おぉ。珍しいじゃん。時穏が先帰ってるなんて…」
「いつもは自主練付き合うんだけど、今日は早く帰ろうと思って帰って来た。」
母に言われたのか夕食を作るその姿を見ながらニヤリと不敵に笑った結葵はポケットから携帯を取り出した。
「ふ〜ん…」
「結兄に聞きたいことがあって…」
「…んなことだろうなぁと思ったわ。」
カシャッとカメラのシャッターを切る音がリビングに響き、時穏が「ん?」と音のした方を見る。
兄はすでにそこにはおらず、ソファーにドカッと腰かけたところだった。
「なんか撮ったよね?」
「うまそうなご飯をな。」
「…。」
首を傾げあまり気にすることなく時穏は夕食の支度を続ける。
メッセージの文を打ちながら、部活前に夜久に呼び止められた時のことを思い出した結葵はソファーから腰を上げ、テーブルの椅子に腰かけた。
「夜久も部活終わってんの?」
「え…どうだろう…?」
「ん〜ま、いっか。電話しよ。」
「電話?!」
「…何?」
携帯をすでに耳に当てて夜久にかけている結葵を見た時穏はしゅんと落ち込んだ顔をしたが「なんでもない。」と言って火を止めた。
ワンコールで出た彼はどうやら携帯を手にしていたらしい。
「夜久?部活終わった?」
『終わってなかったら出ねぇよ…っつか、なんだよっアレ!』
「え?なに?」
『恍けんなっさっき送って来たヤツだっ』
「あぁ〜」
チラッと妹に視線を向ければ、彼女は冷蔵庫の中を見て何かを探している様子。
先ほど夕食を作っている時穏の姿を撮って彼に送っていたのだ。
「どう?嫁に。」
『なっ…んー…嬉しいけど。』
「大好きだな。お前。」
その言葉に、時穏が反応した。
冷蔵庫の中から見つけたらしいジュースの入ったコップを手にして兄の目の前に腰かける。
“何?私の話?”と目が問いかけている。
『…そこに時穏いるんじゃねぇの?』
「お、よくわかったな。今目の前でジュース飲んでる。」
「!!」
『へぇ〜今日早く帰ったのはそれが飲みたいがためにか〜?』
クスクス笑っている電話の向こう。
時穏は言うな、と口が言っている。
「あぁ、いや、俺に夜久のこと聞きたくて帰って来たって言ってたぞ。」
「ちょ…」
『え?俺?』
ニヤニヤする結葵を、頬を赤くして睨む時穏。
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