兄妹
1日の授業が終わり、エナメルバッグを肩に下げて夜久と黒尾に向かって「じゃーまた明日な!」と言う結葵。
「あ、榎本。」
「ん?何〜やっくん〜」
早く部活へ行きたいというのは彼の動きを見れば誰もがわかる。
そこを夜久が声をかけた。
ニヤニヤした、結葵の顔を見るなり嫌な顔をして「やめろ。その顔。」と言う。
「どんな顔してる?」
「お前のこと好きな女子全員に見せたい顔。」
「だからそれどんな顔よ。」
夜久に絡む結葵の背後で、教室を覗くよく知る顔の姿。
視界に入った黒尾が「あ、おい。」と言い合いを繰り広げている二人に声をかける。
「結兄!」
「この声は…」
結葵の背から声をかける時穏。
バレー部のジャージを来てポニーテールをしている姿に結葵は「超絶可愛い俺の妹。」と言う。
その背を叩いた夜久。
「さっさと行けシスコン。」
「あれ。ヤキモチ?」
「うぜぇ…」
いい加減にしてくれ、という顔をして言う夜久にそれ以上何も言わず、結葵は教室の扉でジッと待っている妹の元へ。
その背を見て黒尾はバッグを肩にかけると「アイツのシスコンは一生抜けねぇんだろうな。」と呟くように言う。
夜久も一緒に行こうとバッグを肩にすれば「だろうな。」と苦笑いした。
廊下で話す榎本兄妹を通り過ぎていく3年がちらちらと視線を向ける。
「おぉ、美男美女。」と教室を出た黒尾がニヤニヤする。
夜久が呆れたように「兄妹に見えねぇ。」と呟く。
「あしたすげぇ噂なってそうだな。」
しかし、その妹は今や兄の友達の彼女である。
「まさかそのジャージ夜久のじゃ…」
「違うよ…なんで夜久先輩の借りなくちゃいけないの…先輩まだ教室いたでしょ。」
傍から見た美男美女兄妹には似つかない会話が二人の間では繰り広げられている。
「それより!私のシューズ!間違えて持ってったでしょっ」
手渡されたそれを見た結葵はギョッとした。
妹の手に持たれているのは紛れもなく自分のスパイクが入った袋。
今日は二人とも寝坊してしまい玄関に置いていた二人の荷物。
そこで取り違えた様子だ。
「わりぃ…」
「もーっ」
頭を掻く兄に呆れるしかない時穏は「気を付けてよね。」とだけ言ってシューズを手にした。
「あれ、そいや、夜久何の用だったんだろ…ま、いっか。また電話しよ〜」
[ 59 / 80 ]
prev | list | next
しおりを挟む