朝練での様子
一人顔を隠して何を思い出しているのか、頬を赤くする時穏の姿に研磨は何度目かわからないため息をついた後、今朝の出来事を思い出す。
「時穏と付き合ったって?」
「…噂か?はえーなぁ。」
時穏がまだ来ていない体育館。
準備を始める部員達を他所に黒尾と夜久は睨み合う。
そんな2人の間に、ポツンと立っているのは研磨。
「…クロ、何してるの?」
「こういうのはな、実行する前の有言が必要なんだよ。」
「ふーん…」
よく分からないな、と思い、ドボドボと体育館の端へ向かって言った研磨。
夜久はその姿を見て吹き出した。
「おはようございます。」
「はよーす。」
時穏が来た。
彼女の目の前には夜久と黒尾の姿。
目を見開いた一瞬、時穏は黒尾を見てぺこりと頭を下げた。
「おはようございます!」
いつもと何ら変わりない彼女の様子に、黒尾は「おう。」と柔らかい表情を見せる。
その顔を見た時穏は嬉しそうに微笑んだ。
「あっ夜久せんぱ…」
黒尾の背後を通って行く夜久に声をかけた時穏。
しかし、みるみるうちに顔を赤くする。
「はよ。」
「お、はようございます…」
視線を落とし、でも嬉しそうに頬を緩める姿。
「あれ、きょうはねぇの?いつもの。」
「ないですよ?」
「は?なんで。」
夜久に歩み寄る時穏の顔がいつもと違うのは見てわかった。
「さぁて、どうしたものかねー」
「人のものが良く見えるってヤツ?」
「いや?夜久と付き合いだしたって俺ん中の時穏は変わらねぇな。」
「?ねぇ、」
「ん?」
「…振った理由、」
そこまで言った研磨の口を塞ぐ黒尾。
「研磨にはバレると思ってたけどな。」
「…。」
研磨は目の前でニッと笑う黒尾の姿を見て、目を伏せた。
あれ…時穏には言うなってことだよね。
黒尾との今朝のことを思い出しながら目の前の相変わらず幸せな顔をしている彼女を見る。
パチっと目が合うと、「ん?」と首をかしげ時穏。
「…おれ、いつになっても時穏の良さはわからない気がする。」
「失礼な!!」
勢いよく立ち上がった彼女を見上げて、研磨は先ほどの言葉を確信した。
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