Love Game[完結] | ナノ

見送り


玄関を出た二人は駅に向かう。
聞きたいことはたくさんある。

少し前を歩く夜久に「夜久先輩。」と声をかけると彼は「なに?」と少し振り返った。


「その…いつから家に?」

「あー夕方くらいだな。居たのは…3時間くらいだけど…」


3時間…私が寝てる間に来て、話もしたんだろうな。

そう思うと兄を少し恨みたくなる。
なぜ起こしてくれなかったのか。


「いつもソファーで寝てんのか?」


前を向いているため、どんな顔をして言っているのかはわからないが、自分の顔はわかる。
とても、驚いた顔をしているに違いないと。


「…。寝てるとこ…」

「おう。バッチリ。」


振り返った夜久が口角を上げる。

二人っきり、しかも部活じゃない。

それだけでもドキドキする状況なのにも関わらず、夜久は普段と何にも変わらない様子を見せる。


…私だけドキドキしてる、のかな。


「…なんで、起こしてくれないんですか…。」

「えー…だってすげぇ寝てたじゃん。」


呆れた声だということが言い方でわかる。
顔は向けられていないけれど…


やっぱり、いつ見てもカッコいいな…。


夜久の歩く背を見つめながら“いつも抱き着いてた背中だ…”と思い返す。


「きょうもカッコいいですね。」


いつものように言ってみれば、夜久からは「時穏もな。」と返って来た。

その言葉に首を傾げる。
夜久は黙る時穏を振り返って見れば「寝顔」と一言だけ言ってまた前へ向き直る。


「…え。」

「可愛かったよ。」

「っ…」


何も言えない。

何て言えばいいんだっけ…いつも言われてる。
違うそれは結兄だ。


好きな人から言われたのは、兄のマネをしたときだけ。


[ 54 / 80 ]
prev | list | next

しおりを挟む