自覚
翌日、体育館へ入るなり目の前にいた研磨の姿に駆け寄る。
「研磨っ」
「えっ…何?」
「ちょっと来て!」とシューズの靴紐をまだ結んでいない研磨の腕を引く。
彼は眉間に皺を寄せ「朝から何事…」とダルそうに呟けば、チラッと視線を移した。
「あ、夜久くん。」
「え…」
研磨の言葉に時穏は足を止める。
ジャージのポケットに手を入れて歩いてくる夜久に「おはようございます。」と挨拶をする。
夜久は不思議そうな顔をして「おう…おはよ。」と視線を二人の手元へ落とす。
時穏が研磨の腕を掴んだままの状態。
パッと腕を離した時穏を見て研磨がため息をついた。
「時穏に拉致されるところだった…ありがとう。夜久くん。」
「拉致?!…ん、まぁ拉致かも?」
研磨が体育館へそそくさと逃げる背で時穏は首を傾げる。
研磨を見ながら夜久は「いいのか?」と指をさす。
「はい…」
「じゃあ俺が時穏と話するわ。」
「はい…?」
夜久がふっと笑ったのを見て、時穏は後ずさる。
「何で電話、勝手にアイツに渡したんだよ。」
「やっぱり…怒らないでください!」
「怒ってねぇけど…」
困った顔をする夜久を見て時穏は首を傾げる。
頭を掻いた夜久は「ん〜」と悩んだ挙句、
「もうちょっと話したかったな、と思って。」
そう言うと、体育館へ入ってく。
…ズルい。
本当にズルいと思う。
アレが素直な言葉ってこと、私は知ってる。
だから余計に…ドキドキする。
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