電話
結葵から携帯を借り、ベランダへ出た時穏。
『時穏?』
「はい…」
普段、話を聞く声より、幾らかドキドキする電話での夜久の声に緊張する。
でも向こう側の彼はそんなこと感じていないようだ。
『…何で最近言ってくんないのかなーって思ってたけど…安心したわ。』
―時穏から見た俺、カッコよくなくなったのかな、って思ってた。―
恐らく、電話の向こうで彼は笑顔を見せているんだろうなと考えながら「違います…」と返す。
『うん。わかってる。』
とても優しい夜久の声色に、思わず甘えたくなる気持ちを抑える。
『…時穏?』
「…夜久先輩。」
『ん?』
いつにも増して、優しい感じがするのは電話だからだろう。
「…結兄とは何話してたんですか?」
何か話をしなくては、このままでは夜久との電話が終わってしまうと思う時穏はどうでもいい兄のことを話題にした。
『あー、今度サッカーしようって話してた。』
「…。」
時穏は目を少し見開いた。
夜久先輩が、サッカー?!
『…時穏?さっきからよく黙るなぁ〜。何考えてんの?』
「先輩がサッカーしてるところです。」
『ハハッお前それ考えてんじゃなくて妄想とかの域に入ってるだろ。』
「え…えっと…」
『図星。』
何も言い返せずギュッと携帯を握りしめる。
「…見に行って、いいですか?」
その問いかけに、電話の向こうの夜久も少々驚く。
『…。』
「先輩?」
『いいけど……ダメだな。』
「え…」
時穏がショックを受けたのがわかったのか夜久は
「俺、時穏にはカッコいい俺でいてほしいし…まぁ、バレーの方が好きだし。」
だからバレーだけ見てくれてたらいい。
その言葉に、時穏は溜らずベランダから家の中へ入り、ソファーでくつろいでいた兄に携帯を手渡すとバタバタと部屋へ戻った。
部屋に入るなり、胸元をギュッと握りしめる。
すごい、ドキドキしてる。
「…どうしよう。」
もう、どうしたらいいのかわからない。
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