普段
部活を終えて帰って来た時穏。
明後日の日曜日がとても久しぶりな完全オフ日になり、陽気な面持ちで兄のいるリビングへ向かう。
いつものようにソファーで寝転がっている兄の姿を見てそのままソファーへ直行した。
「ねぇ、結兄。」
「ん〜おかえり。」
「ただいま。」と返事を返すと、時穏はソファーの背もたれに手を乗せた。
「ねぇねぇ、最近、夜久先輩カッコよくなったよね?」
「…。」
唯一兄にだけ話せる、彼のカッコよさについて今日も話そうと思った時穏が結葵を見るも、彼は据わった目を彼女に向ける。
「またそれですか。って顔しないで。」
「…いつもじゃねーか。聞かされる身にもなれ。」
結葵にとって夜久のカッコいい話はつらいものがある。
時穏から聞かされるソレは、全て同感だと思うことばかりだからだ。
「だって結兄しかわかってくれないじゃん。先輩のかっこよさ。」
「あぁ、俺はよくわかってる。」
「だーかーらー…ね?聞いてよ〜」
「あぁ〜そうね。お前が思ってるより、もっとカッコいいぞ。夜久は。」
時穏の動きがピタリと止まる。
結葵の手に握られているソレ。
画面を向けられ、視線が文字を読む。
“夜久衛輔”
「…え?」
「…ん。」
戸惑いの目を見せる時穏に、結葵は追い打ちをかけるように画面を見せる。
―通話中―
【夜久 衛輔】
しっかり脳内で理解した時穏は言葉を失う。
『イヤ…嬉しいけど…恥ずかしいわ。』
スピーカーにされたそこから間違いなく本人の声が聞こえる。
「…無理。消えたい。」
時穏は顔を両手で覆い隠し、どうしようかと考える。
『時穏いる?』
「おー。…何、名前呼ばれたくらいで顔赤くしてんだよ。」
「しーっっうるさい!!」
言葉で全て暴露されてしまった時穏は恥ずかしさのあまり兄を黙らせる。
携帯から聞こえてきた声。
『時穏も可愛くなったよな。』
「っ…えっ?」
「ちょっと待てお前ら。俺が夜久と電話してんだぞ!なんか俺邪魔みてぇじゃん!」
夜久の甘い言葉に戸惑う時穏と結葵。
兄に対して夜久は『いつものことだろー?』と言う。
結葵は難しい顔をして「まぁ、そうだけど…」と呟く。
時穏は二人の会話を聞いて「いつも?いつも言ってる?何を?可愛いって?」と心の中はパニック状態。
そんな彼女の耳に夜久の言葉がクリアに聞こえてきた。
『ちょっと時穏と話させて。』
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