決意
「なぁ、黒尾。」
「…ん?」
3年5組の教室。
騒がしい結葵のいないそこは黒尾と夜久の二人っきりでの会話が唯一成り立つ。
「時穏のこと、もういいのか?」
「もういいわけねぇだろ。」
「…じゃあ、なんで振ったんだよ。」
夜久に向けられた黒尾の視線はいつもと何らかわりない。
「俺は、やっくんみたいに器用じゃねぇんだよ。」
「…は?」
頬杖をついた黒尾に、首を傾げる夜久。
「榎本にも言ったけど…俺に時穏を支えられる土台ができたら。そん時は、俺が落としに行く。」
「…なんでわざわざ土台作る必要があるんだ?」
夜久は黒尾の言葉にわからない、と訴える。
「時穏はお前が好きだって言ってんだぞ?俺ならお互いが好きな気持ち優先する。土台はそれからでもいいと思うけど?」
「夜久はそうだろうな。…そこが俺と夜久の違うところだな。」
「…俺にはそれが出来て、黒尾にはそれができねぇのかよ。」
「そうだな。」と少し口角を上げた黒尾。
「…それだけ自信持ってて、なんで付き合わねぇんだよ。」
黒尾は、“しっかり土台をつくってからでも、好きな子を落とすことはできる”と遠回しに言っている。
それをわかっている夜久が“何でわざわざそういうことをするのか”と問いかける。
「…夜久には敵わねぇな。」
僅かに笑う黒尾。
その笑みに、どんな意味があるのかわからない夜久はそのまま視線を逸らして黙った。
何かを、決めたように。
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