相変わらず
研磨の意味のわからない言葉にモヤモヤを感じたまま放課後になった。
練習が始まり、ボール出しをする時穏の視線の先にはリエーフ。
「しゃあー!お願いします!」
気合十分だなぁ…と見ていた部員全員が思ったことだろう。
コーチから放たれた強打をレシーブする練習。
しかし、リエーフの腕に当たったボールは真っすぐ返らず右へ飛んでいく。
「アレッ?」
「ぶっあははっ!なんだー?さっきの気合はどーした!」
一瞬の出来事のあまりきょとんとするリエーフに山本が盛大に笑い茶化す。
「できましたよね?!」と言うリエーフに、研磨は「できてない。」と返し、黒尾は「キョトンとしてたじゃねぇのお前…。」と呆れた顔を向ける。
「なんか今日、冷たくないスか?」
「5本成功するまでに何分かかってると思ってるの…」
研磨の冷たい言葉にリエーフはギクリとする。
「もう、リエーフは3本でいいんじゃないの。」
「ちょ…ダメです!妥協ダメです!」
「妥協って意味わかって言ってる?」
「わかってますよー!」
「俺、別に妥協したつもりないけど…」
「え?」
研磨がフイッと視線を逸らしたとき、夜久が「リエーフ。」と彼を読んだ。
「なんスか?」と夜久へ歩み寄るリエーフに、研磨がため息をついた。
「腕出せばいいってもんじゃねぇんだよ。真っすぐ出せ。」
「真っすぐですか?」
「そう。」
そう言ってリエーフにレシーブの仕方を教える夜久。
練習はスパイクに切り替わり、研磨にボールを投げる役割。
しかし、レシーブの仕方を教えている夜久の姿をジッと見ていた時穏に「時穏ちゃん、ボール出していただけませんか?」と黒尾先輩の張り付けたような笑顔で言う。
「すみませんっ」
慌てて研磨にボールを投げる。
助走からネット際で踏み込む黒尾の姿に視線は釘付けになる。
…先輩は、ズルいよな…。
やっぱりバレーしてる姿はカッコいい。
「ナイストスだったぞー研磨ー」
じーっと去っていく黒尾の背を見つめながら、時穏が呟いた。
「私も研磨になりたい…」
「…何言ってんの。」
研磨は据わった目で時穏を見ると「早くボール。」と催促した。
「時穏。」
休憩に入り、隣にいた研磨に声をかけられる。
視線を向ければ、「意味、わかった?」と問いかける。
彼女は眉間に皺を寄せた。
「ぜんっぜんわからない!だから教えてっ」
「…ばか?」
「気になってモヤモヤするし…早く教えてよ。」
そう言う時穏に、研磨が「器用っていうのは…」と口を開く。
「例え好きな人がいても、誰にでも同じ距離で接すことが出来るってこと。」
…誰にでも?同じ距離…。
「だから、好きな人に対してでも、特別たくさん話すわけでじゃなくて、一定の距離で、好きな人でも見守ることができる。そういう人。」
「クロとか、そうだと思うよ。たぶんだけど。」と黒尾の姿を見て言う研磨。
時穏の視線もそちらを向く。
その隣には夜久が楽しそうに笑う姿。
「夜久先輩も器用そう。」
「まぁ…男って、どっちかだと思うよ。」
「ん?」
「好きな人に、好きだってことをバレないようにする人と、あからさまに好きだってアピールする人。」
「俺はどっちでもないけど…」と言ってボトルを口にする研磨。
「…ん?じゃあ研磨は一体何。」
「…好きな人できたことないし、わからない。」
「えぇっじゃあ今の話はどこから?」
「信じない方が、いいかもね。」
少し口角を上げた研磨の横顔を見た時穏は「たまにそういうとこあるよね。適当なところ。」と研磨を指摘した。
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