モテモテ先輩
部活が始まる前、ジャージを来て教室へ向かって走る時穏の姿。
やばいやばいっシューズ忘れた…!
部活開始まで残り5分。
教室の前に着くと誰もいないはずのその教室に勢いよく入った。
が…目を見開いた。
「っ…あ…えと…!すみません…!」
そう言って来た意味虚しく扉を閉める。
口を両手で塞いだ。
な…な…待って。
キスしてたんですけどー!?
クラスメイトの女子と、他クラスの男子と見た男女が、お互いを求め合うように唇を重ねているところへ入って行ってしまった。
時穏は頬を赤くし見てしまった光景を思い出してはとても申し訳ない気持ちになる。
それと同時に、
「…いいなぁ。幸せそう。」
という羨ましさも感じた。
何のために教室まで来たのかわからない。
ただシューズの代わりに手に入れたものは、男女の生キスシーン。
トボトボと体育館へ戻る時穏の元に二人組の女の子が現れた。
何だろう…?
それより…こんなに可愛い子、音駒にいたんだ。
キスのことなんてどこへらや、今は目の前の彼女に釘付けな時穏。
彼女は、時穏に「あの…これ、」と腕をピシッと伸ばして頭を下げる。
「ん?」
「夜久先輩に渡していただけますか?」
とても可愛い子が、時穏に差し出したのは手紙。
彼女の顔を見ると本人に渡しているわけではないのに、とても緊張した面持ちで目をギュッと瞑っていた。
…私に渡すのにこんな状態じゃ、本人に渡すのは無理か…。
「うん。わかった。」
「ありがとうございますっ」
え…すごい可愛い…。
無邪気で、かつ、ふわりと微笑んだ目の前の彼女はとても女の子らしく可愛かった。
…私も誰にでも可愛いって思ってもらえるような人になりたいな。
部活前のため、結ばれた髪に手を伸ばす。
逆の手にある手紙を見つめる。
夜久先輩…やっぱりモテるなぁ…。
カッコイイもんね…。
…しかも、すごく可愛かった…あの子。
そう思いながら、ハタっと立ち止まる時穏。
もし…夜久先輩に彼女が出来たら…
あまり馴れ馴れしくしちゃいけないようになっちゃうのか…
抱きつけなくもなるよね。
まぁ、それはどの部員にも気をつけなければいけなくなるけど…
夜久には、いつまでも彼女がいないような気がしていた時穏。
しかし、この時、いつ出来たっておかしく無い状況だということに気付く。
「…最近、先輩に抱きついてないなぁ…」
どこか、気まづい。
黒尾とだけではなく、全員とだった。
黒尾が主将だということが大きく影響していた。
彼が主将であるために、時穏はみんなの顔色を伺い、バレー部自体に変化がないかだけを見てきていた。
「時穏。」
背後から名前を呼ばれ、振り返る。
「何してんだ?こんなとこで。」
彼が言う“こんなとこ”とは、体育館へ繋がる道のど真ん中。
視線は時穏の手へ。
「何持ってんの…?」
そう言って時穏に歩み寄ればその手に掴まれている手紙を取った。
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