Love Game[完結] | ナノ

ハードルは高く


「やっくんは…時穏に何か言った?」

「…。」


3年5組の教室、ゴールデンウィークの事件(?)から数日経ったある日のこと。
黒尾がいない教室で、結葵は次の授業の課題をしながら隣の夜久に問いかけた。

夜久は見ていた雑誌に視線を向けたまま頬杖をつく。


「いや、そこには触れてない。」

「…優しいのか、優しくないのか、わからねぇなソレ。」


結葵は隣で雑誌を捲った夜久をチラッと見た。

彼の表情は、いつにも増して真剣だ。


「黒尾のこと、好きな時穏に惹かれることもあったし…何も言えねぇの。」

「…夜久、それでいいのか?」


結葵は知っている。
彼だけが知っている。

夜久がいつから時穏を好きで、ずっと見守って来たかを…

そしてそんな彼女を、簡単に惹かせたのは黒尾だということもしっかり見てきたことを。


そんな彼が、今まさに有利な状況下であるはず。
一番身近で、時穏の支えにだってなっている存在であることは間違いない。


なのに、どうして近づこうとしないのか、と結葵は問う。
夜久の答えは、“弱みに付け込むなんて嫌だ、正々堂々と自分で勝負したい”という気持ちだった。


結葵は、カッコいいな。と素直に思った。
それと同時に、あぁ、俺もこういうとこ見習わないといけねぇんだな、と思わされる。


「…妥協じゃねぇよ。妥協はしねぇ。」

「…じゃあ、何?」


夜久は雑誌から視線を上げると、頬杖をついた姿勢のまま結葵を見て


「時穏に好きだって言ってもらう。」


口角を上げた。


「…ハードル高くね?」


結葵は、そうは言ったものの、内心ワクワクしていた。
目の前のカッコいい夜久の姿を見て、誰が「コイツには絶対無理だろ。」と思うだろうか?

相当ひねくれた男でもない限り、誰も思わない…むしろ、「コイツなら実現し兼ねない。」と思う者が大半を占めるだろうと思ったからだ。


「いーんだよ。じゃなきゃ…アイツに勝てた気がしねぇ。」


夜久は、黒尾に惹かれていた時穏に相当真剣らしい。


「それに…」と雑誌を捲る夜久。


「俺だけを見て、好きになってもらえたら…嬉しいだろ?」


ニッと笑う夜久に、釘付けになる結葵。


「…もう夜久、十分カッコいいからそれ以上カッコよくなるのヤメテ。」

「はぁ?好きな子振り向いてねぇんだからまだまだだろ。」

「やめろ、まじで。それ以上モテたら俺困る。」

「何でお前が困るんだよ。…ってか、お前の妹可愛すぎて困ってる。」

「それは同感だ。」


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