Love Game[完結] | ナノ

帰って来ない


大きな欠伸をしながら、家を目の前に歩く夜久の姿があった。
夜はまだ寒く、ジャージのポケットに両手を入れて歩く。


「ん?」


ジャージのポケットに入れていた携帯が震え、手にする。
真っ暗な夜道を歩き慣れた目に、画面の明るさは不快に感じた。


「はい?」

『あ、夜久?いまドコ?』


携帯の画面に表示されていた相手は“榎本結葵”だった。

辺りを見て「もうすぐ家着くけど?」と答えれば、結葵は黙り込む。
しばらく沈黙が続き、「用件あるなら言えよ?」と催促すれば、結葵の声は静かに言った。


『時穏がまだ帰ってきてねぇんだよ。』

「は?」


家の目の前。
夜久は歩みを止めた。

一気に脳内で整理する。


「…家、近かったよな。東京駅から。」

『まぁ夜久ん家よりは近いな。』


帰宅するはずの時刻から、20分程度が過ぎている時間。


「…心配し過ぎじゃね?シスコン。」

『かなぁ〜?早く会いたい俺。』

「気持ち悪いからやめろ。」

『ひどい!』


悲しむ結葵の声を耳に、家に入った夜久。
その時に、思い出す。


「あ、研磨と帰ってるかも。」

『けんまって…黒尾の幼なじみか。』

「おう。あー黒尾に電話してみれば?何かわかるかも。」

『マジで?!』

「時穏と研磨が一緒に帰るとなれば、東京駅で解散したから、たぶん一緒に帰ってると思うぞ。」

『おぉ〜!!夜久サンキュー!!』


それだけ言って即行通話を切った結葵。
夜久は携帯の画面を見つめてため息をついた。


「あのシスコンどうにかなんねぇかな…」


しかし、時穏に何かあったとなれば…


「あーくっそ。まぁまたなんかあれば電話かけてくるだろ。結葵だし。」


心配な面もある。
気になる。

しかし、先輩と後輩。
友達の妹。


「…こういう時恋人だったら、って思うよな。」


その後、数分すれば夜久の携帯に一通の通知が入る。


“時穏帰って来た!”


「ただのシスコンじゃねぇか…。」


[ 35 / 80 ]
prev | list | next

しおりを挟む