星空の下
「連絡先交換したの?!」
「…声大きい。」
画面を操作する研磨の隣を歩いて会話をしていれば、あの突然の質問をしてきた烏野のミドルブロッカーと連絡先を交換したという研磨に驚きの声を上げた時穏。
終いには、うるさい、とまで言われ黙り込む。
「時穏、眠くないの?」
「うーん…眠い。」
研磨は「絶対嘘じゃん。」と横目に彼女を見る。
チラッと夜久と黒尾の背を見る。
仲良さそうに会話する3年生を見て「ねぇ、研磨。」と隣の研磨に言った。
「3年生とは、今年最後なんだよね…」
「……何、突然。」
研磨はあまりその話はしたくない、と声色から言っている。
それを知ってか、知らずか、時穏は「夜久先輩も黒尾先輩も…音駒にいるのはもう少し。」と呟く。
研磨は「地球上にいるんだから会おうと思えば会えるよ。一生会えないみたいな言い方してるけど。」とオーバーなことを言った途端、時穏は「そうか!そう考えれば、せめて東京にはいてくれるよね?じゃあ全然会えるよね?」と元気を取り戻す。
「…ポジティブ…。」
研磨はダルそうに呟くと黒尾が「研磨ー。」と手招きしているのを見て駆け寄って行く。
黒尾と共に振り返った夜久が時穏を見て少し歩みを遅くした。
「眠くないの?」
「眠いです…」
「だろーな。あれだけ新幹線で爆睡してりゃ。」
「見たんですか?!」
「減るもんじゃねぇだろ?」
「くぅ…」
駅構内を出て、時刻も遅いためその場で帰宅となった。
「時穏。」と声をかけられ、振り向けば主将の姿。
「はい。」
「一緒に帰るぞ。」
「は…え?!」
普通に返事をしようとしたが、言葉の意味を考え黒尾を見上げた。
目を丸くする時穏に、黒尾が「話したいことがある。」と言う。
それを拒否しようなんて考えていない時穏は頷いた。
「時穏って何駅で降りんの?」と来た電車に乗り込む二人。
いつもと何ら変わりない黒尾の姿だが、時穏には緊張が走っていた。
二人っきり、しかも一緒に帰ることなんて初めてで、いつも部活で起こったことを話題とするが今日はすでにほとんど話してしまっており、何を喋ろうかと考える時穏。
考えれば考えるほど、深みにはまり何か目に入ったもので会話をしようと思い視線を上げた。
「俺、時穏とは付き合えない。」
上げた視線の先と、電車がすれ違う音。
社内アナウンスの声。
あと、黒尾先輩の声。
僅かに開く口。
深く座席に腰をかける。
「…魅力不足ですか。」
真隣に座る黒尾は微動だにしない。
呼吸をしているのかもわからないほど、動かない。
時穏の、低く静かな声を聴いた黒尾は「いや、そうじゃなくて…」と否定の言葉を述べようとする。
彼女は、もう先ほどの一言で、否定されたところでどうとも思わないようになっていた。
「そういう理由じゃねぇんだよ。悪い。」
「っ…悪いって…何ですか。」
ぎゅっと拳に力を入れる時穏。
今、彼女の脳裏に過っていくのは彼女の見た、聞いた、黒尾の姿、言葉。
あぁ、これが、今この瞬間、すべて崩れていく。
「謝らないでください。黒尾先輩を、好きになって、告白みたいな感じになっちゃったけど…告白して…後悔は、全くしてません。」
電車がどこかの駅に留まる。
荷物を持ち、立ち上がる時穏。
「ここで降ります。失礼します。」
「…時穏…」
黒尾の呼ぶ声虚しく、彼女はドアが閉まる直前、駅へ降りた。
夜遅い、人通りも少ないその駅で、見上げた空は
「…綺麗…」
星がキラキラ輝いていた。
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