遠征
真っ赤なジャージの集団が新幹線のホームへ向かう。
これから、音駒バレー部は宮城へ遠征に行く。
「ちょ、研磨っ」
「…何。」
周りからの視線はともかく、さっそくマネージャーと部員が衝突を起こしていた。
時穏の前を歩いていた研磨が手元で携帯を操作しながら歩く、世に言う歩きスマホ常習者。
そんな彼の歩き方がふらふらしているのをずっと背後で見つめていたが、人の多い駅構内、時穏はとうとう注意をしたのだ。
「何じゃない!危ないでしょっ」
「…じゃあ時穏が前歩けばいいよ。」
「ぐっ…そういう問題だけどそういう問題だから言ったんじゃない!」
イラァっとした顔を向ける時穏に研磨が怪訝な顔をした。
携帯をポケットに入れると「これでい?」と目で訴える研磨に時穏は一度深く頷いた。
その光景を遠くで見守る3人、3年生だ。
「研磨が怒られてやがる。」
「そしてそれをちゃんと聞いてる。」
「偉い。」
黒尾、夜久、海が二人を見てそれぞれ感想を口にしていた。
「時穏は、もう大丈夫なの?」
「え?何が?」
駅に新幹線が入ってくるのを見て、目を輝かせている彼女。
そのまま研磨の方へ視線をやったが研磨は「…ううん。なんでもない。」と時穏の様子を見て首を振った。
「私初めてなんだよね〜新幹線!」
「うん。見ればわかる。」
「そんなに顔に出てた?」と研磨に問いかけている時穏。
すでに周りにいたはずの部員たちは新幹線に乗り込み、残っている二人に黒尾が声をかける。
「おい、お前ら。置いてくぞー。」
「ハッ…私はよくても研磨は!」
そう言って研磨の腕を掴む時穏。
研磨は引っ張られるがまま新幹線へ。
「いや、お前いねぇといろいろ大変だから…」
「ですよね!」
「いや、だから時穏のことだっつーの。」
「?」
研磨のことでは?と黒尾にきょとんとした視線を向ける。
黒尾はため息をついた。
「手がかかるのが増えたかもしれねぇな…」
「…?」
遠い目をしている黒尾の言葉に首を傾げる時穏と、山本に荷物を置いてもらっている研磨。
「時穏、虎が荷物置いてくれるよ。」
「あ!うん!」
その二人の様子を見て黒尾は微笑するしかなかった。
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