雰囲気
「夜久先輩。」
「…ん?何?」
体育準備室で後輩と共に片付けの指示を出したりしている夜久に声をかけた時穏。
丁度指示された犬岡たちが体育館へ向かって駆けだして行ったところだった。
「…怒ってますか?」
「…え?俺?」
「はい。」
「えっと…誰に?」
「私にです。」
「はぁ?」
真っ暗な準備室の中、夜久の顔が歪んだのが見えた。
「怒ってねぇけど…なんでそう思った?」
手にしていたボールを籠へ入れると夜久はそれを奥へ仕舞う。
体育館では無邪気な声と共に黒尾の怒る声が聞こえてくる。
時穏はぎゅっと握った拳に力を入れた。
「…私が、抱き着かなかったから怒ってるんだと…」
「はぁ〜?」
「うっ…すみません。」
今の方が怒っている様子の夜久に思わず謝る時穏に「違う。怒ってねぇよ。」と言われ顔を上げれば夜久がため息をついた。
「ちゃんと言ってみろ。俺が怒ってると思った理由。」
腕を組み、仁王立ちする夜久を目の前に時穏は小さく呟くように話した。
「さっき、籠持ってもらったときに…“じゃあなんで今日抱き着かなかったんだよ。”って言ったから…それで怒ってる…と思いました。」
「あぁ。俺の言い方が悪かったな。悪い。」
ふっと笑うと夜久は時穏に「怒ってねぇから。心配すんな。」とだけ言ってそのまま準備室を出ようとした。
でも、ジャージをグッと引かれる感覚で歩み留まった。
「時穏?」
ジャージを掴んだまま離さない彼女に一歩歩み寄る夜久。
その姿を遠くから見た黒尾が「何してんだ?アイツ。」と歩み寄る。
暗くて顔は良く見えないが、様子が違う彼女に夜久は「おい、どうした?」と声をかける。
「夜久先輩…」
「なに?」
やっと声を発したと思えば、時穏が顔を上げた。
その顔を見て言葉を失う。
黒尾は夜久に「おい、夜久。」と声をかけた。
それとほぼ同時に、彼は「時穏。」と姿は見えないがいる存在を口にし、腕を動かすのが見える。
見てはいけないもののような、気がした。
咄嗟に視線を逸らした黒尾は頭を掻く。
「何してんの?」
「うおっびっくりした…」
「?早く片付けよう。帰りたい。」
「お、おう。」
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