変化
3年5組の生徒はみな目前に迫っているゴールデンウィークの話をしている。
そんな中、教室の一角では1人がボーっとグラウンドを見ていた。
「俺ら(運動部)には何も嬉しくねぇ長期休暇だな。」
「サッカー部も休みなしなのか?」
グラウンドを見つめたまま結葵は「おう…」と寂しそうに返事をする。
夜久はその背を見つめながら顔を引き攣らせた。
「お前、彼女でも作れば?」
「どういう経緯でそういう話になった?!」
前の席でパックジュースを飲みながら突拍子も無いことを言う黒尾に食いつく結葵。
夜久が「お前が寂し気だったからだよ。」と平然と言う。
「っつかなんで彼女作らねぇの?俺らより幾分か楽だろ?」
「楽じゃねぇわ。サッカー部も忙しいんだよ!」
「舐められたもんだなぁ〜サッカー部も。」
「夜久テメェ楽しんでるだろ!」
黒尾に噛みつく勢いで言い返せば、それを聞いた夜久がニヤニヤとしながら思ってもいないであろう発言をする。
結葵はその場にヒレを切らし落ち着きを取り戻すと「ふっふっふっ」と不敵に笑い始めた。
その笑いを聞いた黒尾が「何。キモイ。」とハッキリ言う。
「黒尾こそ、どーなんだよ。うちの妹は。」
「出るぞ。榎本のシスコン発言。」
「えっ今のどこがシスコンだった?」
「だから、今から出すんだろ?」
「出さねぇよ!」
ニシシと歯を見せて茶化す夜久。
その反面、黒尾は結葵からの問いかけの返事に「あー?別に。」と言葉を濁す。
黒尾の言葉に夜久も結葵も黙り込む。
「…昨日、アイツ(時穏)言ってたけど…やっくんにヤキモチ焼いただろ。」
「っ…ゴホッ」
「えっ何?俺?」
黒尾は飲んでいたジュースで咽る。
結葵はニヤリと不敵に笑った。
夜久はまさか自分の名前が出てくると思っていなかったらしく少々驚いている。
「どうやら図星らしいなぁ〜その様子だと。」
「図星も何も、本人から聞いたんだろ?」
「そう。」
ニコッと笑う結葵にダルそうに視線をやる黒尾。
夜久は黙ってその様子を見ている。
しかし、一瞬の間、結葵の表情が一変した。
「お前さ、それ、言える立場じゃねぇだろ?」
「っ…」
黒尾は難しい顔をして結葵とは逆に視線をやった。
夜久は昨日のことか、と話から察しため息をつく。
「まだ付き合ってねぇんだから、いーんでないの?」
結葵が夜久へ視線をやりニッと笑う。
それを見た夜久は何とも言えない顔をして視線を結葵から離した。
「まぁ、そうですね。」
「じゃあ、早く付き合えよ。」
「そう簡単に付き合える相手じゃねぇだろ?」
「…その言葉にどんな意味が含まれてんのか知らねぇけど…余裕だと思ってたら、尚知らねぇぜ?」
黒尾の決断に時間がかかっているわけには、結葵と夜久の両者の関係上が大きかった。
それを知って結葵は、そんなこと気にすんなと言ってあげたいところだがそれは言ってしまってはもう一方が何もできなくなってしまうと夜久を見る。
夜久は困ったように結葵を見てため息をついた。
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