勝ち
「結兄〜」
「ん?」
部活を終えて帰宅すれば、いつものようにソファーで横になっている兄の姿があった。
時穏は鞄を傍に置くとその顔を覗き込むようにソファーの背から身を乗り出す。
「今日ね、夜久先輩に抱き着いた。」
「お。早速かよ。お前毎日抱き着いてんの?」
昨夜、ゲームだ、と言って黒尾のことで勝負している最中である。
その結果がきょうすでに出た。
兄の質問に「だって夜久先輩カッコいいもん。」と言えば兄はふっと笑い「夜久も大変だなぁ〜」と遠い目をした。
そこに時穏は気にする様子はなく、「それより…」とさらに身を乗り出した。
「黒尾先輩に、見られちゃってさ…好きだって言っておいて、何コイツ他の男に抱き着いてんだって絶対思われたと思うんだよね。」
「まぁ〜普通は思うんだろうけど…お前と夜久の関係知ってるんだろ?」
「毎日抱き着いてんのも。」と兄は視線をテレビへ移した。
「そうだけど…だけど!黒尾先輩怒ってたよ?」
「え?黒尾が?何て?」
予想外だったらしい兄は視線をすぐ妹の時穏へ移した。
「“誰にでも抱き着くんじゃねぇ。”って…言われた。」
それを聞いた結葵は「おぉお?」と身を起こす。
「まぁ〜でも、それを言える立場じゃねぇよなぁ。」
胡坐をかいて壁を見つめる結葵。
時穏も「うん…」と小さく同意の言葉を漏らした。
「あ、でもきのうのは俺の勝ちだな。」
昨夜のゲームを思い出した結葵はニッと笑う。
時穏はそんな結葵に「なんか悔しいのはなんでだろう。」と憎たらしい者を見る目を向ける。
「あ!可愛い顔が台無しだぞ!」
「そんなんだからシスコンって言われるんじゃん!」
「時穏は俺をカッコいいって言ってくれねぇよなぁ〜モテるのに。」
「自分で言うと台無しになるよ。何もかも。」
冷たく言うと部屋へ戻る時穏の背に向かって結葵は再びソファーに横になると口角を上げた。
「さぁて…どうするかなぁ〜。」
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