ハッキリしたい
放課後になった。
意を決して研磨と共に更衣室へ来た時穏だったが、目の前に頼れる守護神を発見した。
「…夜久先輩だ…。」
「うん、そうだね…」
ちらっと、隣の時穏に視線を送る研磨。
しかし、彼女はやはりどこか元気がない。
「…抱き着きにいかないの?」
「うぅ…だって、絶対黒尾先輩から聞いてるでしょ…私のこと。」
「は…ってことは家に帰れば結兄が……」と帰ってからのことを考えるととても嫌そうな顔をする。
「仕方ないじゃん。クロに言ったこと、嘘じゃないんでしょ?」
「うん…」
「おれだったら、気持ち隠されるよりずっと嬉しいけど…?」
研磨なりの、フォローだった。
しかし今の彼女は、プラス思考には考えられないらしい。
「そんな…研磨だったらいいんだろうけど…黒尾先輩、好きな人いるかもじゃん。有難迷惑な話だったかもしれ―…」
「おい、時穏。」
グイッと、左腕を掴まれ引っ張られる。
上から降ってくる低い声。
体中、一気に緊張が走った。
間違いない、黒尾先輩の声だ。
「クロ…」と隣の研磨が口にしたので確信した。
黒尾先輩に、腕掴まれてる…。
いや、そんなことより…なんか、怒ってる?
「部活には間に合わす。そのためにもお前、ちょっと来い。」
チラッと視線を時穏に向けると、すぐ腕を掴んだままどこかへ向かって歩き出す黒尾。
時穏の頭では、何がなんなのかわからなくなっていた。
「あ…あの、黒尾先輩。今私混乱してて…」
「俺のほうが混乱してんだよ。だから、はっきりしたい。」
はっきり、したい?
なにを?
時穏は、掴まれた腕から帯び始めている熱を身に感じながら、胸を高鳴らせる。
体は、もうわかってる…
のくせに、頭では…恐怖しか感じてない。
時穏は、黒尾の態度を見て、わかっていた。
黒尾が自分の言った言葉を察したことも、その真相を知りたいことも。
人気の少ないところに来た。
腕から手を離され、振り返った黒尾。
時穏は俯いた。
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